2018年、行方不明だった2歳男児を山口県周防大島町で発見し、一躍時の人となった"スーパーボランティア”尾畠春夫さん。

 同氏との3年にわたる交流を、ライター・フォトグラファーとして活躍する白石あづさ氏は『お天道様は見てる 尾畠春夫のことば』(文藝春秋)にまとめた。ここでは、同書の一部を抜粋し、尾畠さんの“食”についての考えを紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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人間ほど悪くて最低な奴はいない

 ワシ、キイロスズメバチに32か所、いっぺんに刺されたことがあるんだわ。腫れるなんてもんじゃないよ、奈良の大仏さんの頭のイボイボみたいに、頭から顔からもうボコボコよ。

 歩いていたら、突然、ブワーッ!と来たんです。そいで、チクチクチクチクチクチク!って。警察に「あそこにハチがいて危ないから駆除してください」って言いに行ったら、ワシの顔を見た警官がびっくりして病院を紹介してくれたの。点滴を受けてな、看護師さんが「ひい、ふう、みい」と腫れたとこを数えて、「全部で32か所あります」ちゅうて。2度刺されると(アナフィラキシー)ショックで死ぬっていうからね、「よく死ななかった」って言われたんやけど、たとえ100か所、刺されてもワシは死ぬ気はしなかったけどな。

 ハチは恐ろしいって? でも、世の中でハチよりも恐くて一番、悪いことする動物は何だと思う? それは間違いなく人間なんよ。環境は破壊するし、もう勝手気ままに命を取るからね。人間みたいに何でも食う動物はいないんよ。ゾウだって、キリンだって、シカだって、サイだって何を食べてるかというと草だけ食っちょる。それであれだけ走ったりしてるんよ。

「日向岳に向かう途中、ぬかるみが。「これはイノシシのヌタ場(泥風呂)。背中の虫を落とすんよ」 ©白石あづさ

 人間は、前から住んじょった動物を追い出して、山やら草原やらを破壊して稲や野菜を作る。それなのに、動物がそこに入ってきたら、「有害駆除」だと罠をかけたり、鉄砲で撃ったりして殺しちゃう。もちろん、今も昔も猟師さんが生きるため、食べるために獲っているのは分かるんよ。でも先にいた動物を「有害」って呼ぶのはおかしいでしょ? 山でシカが増え過ぎたのは人間がいたから。もし、自然のままやったらね、増え過ぎず減り過ぎずなんよ。

 今の人間はシカを鉄砲で殺したら、今度はジビエ料理なんていうのにする。そいで、いざ食べたら硬いだ、酸っぱいだ、おいしくないっちゅうて、ボンボンボンボン捨てるでしょ。だから、この世に人間がおらなくなったら、素晴らしい国になると思う。動物から見たら、私を含めて人間ほど悪くて最低な動物はいないんよ。そう相手の立場から考えてみるのも大切よね。