昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2021/10/04

source : ノンフィクション出版

genre : ニュース, 社会, ライフスタイル, 読書

米1粒、 汁1滴の気持ちになってみる

 日本人は何民族かと聞かれたら、たいていの人は「農耕民族」と答えるだろうね。でも、普段、それを忘れている人がいっぱいおるんよ。たとえば、コンビニなんかで弁当買うでしょ? それでこう蓋を取るわね。でも蓋に付いちょるご飯粒はまず食べる人いないんだわ。

 ちょっと前のことだけど、息子の家族と一緒にお弁当を食べたの。そん時、孫が弁当箱の蓋を取って容器の底に敷いたんよ。それを見て、ワシは孫に「ちょっと待て。今、何した?」って言ったら、「ん? じいちゃん、どうしたの?」って首を傾げとる。だから「蓋にはな、まだご飯粒が付いとるじゃろう。『米』ちゅう字、書いてごらん」ちゅうた。

「米」という字、それをばらしたら、八十八って書くよね。何でかちゅうと、1粒の米を作るのに、88回、農家の人が手をかけて、初めてその1粒ができるからなんよ。

「な。お前、作った農家の人に感謝の気持ちも必要だし、米粒たちも可哀そうよ。88回、手をかけられてな、最後に釡で炊かれて、弁当に詰めて蓋をされてな、お前の手元に来た。それで蓋に付いちょるからって食べずに捨てたら、その米粒たちがどれだけ悲しむか」

台風で倒れた大きな木の根を見て「自然の力には敵わねえ」とつぶやいた ©白石あづさ

 ワシ、「うるさいジジイ」って嫌われても仕方ないと思って言ったんだけど、孫は「じいちゃん、ごめん。今からちゃんと食べます」って言うてくれてね、嬉しかったんだわ。

 ワシはね、レトルトの味噌汁でも飲んだら、最後、容器のヘリにくっついた乾燥ワカメやネギ、底に残った数滴の汁も水を足して飲み干すんよ。

 周りの人にどう思われようと構わない。だってこの中の味噌や具たちは、生まれてから袋に詰め込まれて、商品にされてからというもの、蓋を開けてお湯を入れて飲んでくれる人をずーっと待っていたんよ。

林道で運転中、落ちていたイガ栗を発見。「食べられるものって道に結構あるんよ」 ©白石あづさ

 乾燥ワカメの気持ちになってみてよ。「あ、今、お湯が入った! 気持ちがいい。あ、膨らんだ。私たちついに食べてもらえる……あれ⁉ カップのヘリにペタペタッとくっついちゃった! 他の仲間の具たちは、おやっさんの胃袋に行ったのに、私とネギのあんたは、二人とも排水口に流されちゃう。悲しいね」って。

 ご飯や味噌汁の気持ちを考えたら、ワシ、米1粒、汁1滴、残せないんだわ。