他方、ハリスに対する批判が、黒人・アジア系初の女性副大統領として、差別や暴力のないより平等な社会に向けて、ハリスがイニシアティブを発揮してくれると期待していた民主党支持者、とりわけ若者にも広がってきたことも見過ごしてはならない。
黒人女性が政権の中枢に入り込むことは、ジェンダー平等・人種平等の実現に向けた第一歩に過ぎず、真に重要なことは、そのことが起点となり、これまで白人男性が権力の中枢を占めることで温存されてきた差別の是正への政策的な変化が起こることである。ハリスはこうした実質的な変化をもたらせたのか。
かつてハリスは、不寛容な移民難民政策を厳しく批判してきたが…
支持者の間には、ハリスは、既存の権力構造における「女性ボス(Girl Boss)」としての地位にすっぽり収まってしまったという批判が広がっている。2020年大統領選中のハリスは、Black Lives Matter(黒人の命は大事だ)運動が求める警察改革を強く支持し、トランプ政権でとられた不寛容な移民難民政策を厳しく批判してきたが、副大統領となって以降、こうした主張は影をひそめてきた。
初の外遊としてグアテマラを訪問したときには、アレハンドロ・ジャマッテイ大統領との共同記者会見で「米墨国境まで危険な旅をしようと考えているグアテマラの人々には、はっきりと言っておきたい」「来ないで」と述べて物議を醸した。
多くの人々が公正な社会への実質的なアクションを求める時代に
黒人女性という属性ゆえにハリスは、「既存の政治を変えてくれるかもしれない」という期待を、おそらく過剰に集めてきた。他方、政治家としてのハリスは中道派で、それゆえに、バイデン政権の副大統領の地位に上り詰められた面もある。
しかしますます多くの人々が、公正な社会への実質的なアクションを求める時代にあっては、ハリスのこれまでの成功の方式は通用しない。将来ハリスが女性初の大統領に挑戦するならば、自身の政策的な軸を固め、「どちらつかずの中道の政治家」というイメージを脱皮していけるかが鍵となるはずだ。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2024年の論点100』に掲載されています。