ドナルド・トランプが「合法的な票を数えれば、自分が勝っている」と吠えたアメリカ大統領選で、トランプの主張をほとんど疑いなく受け入れた人々が日本にもいた。右派コミュニティだ。
「不自然かつ怪しい数字が溢れている」「郵便投票で信じられないほどの不正があった。日本のメディアはなぜか報じない」といった声がネット上には溢れかえっていた。
集計などにミスがなかったとは言わないが、トランプが声高に主張するような大掛かりな不正があったという証拠はどこにもない。まったく合理的な根拠が示されない「不正選挙」論は、ほうぼうの選挙についてまわる陰謀論であり、多くはすでに検証されているのでここでは繰りかえさない。アメリカも加盟している欧州安保協力機構の国際選挙監視団が今回の大統領選について「よく管理されていた」と声明を出した事実を記しておけば十分だろう。
共通点は“中国とナショナリズム”
私が実に興味深いと思ったのは、「日本学術会議が中国の軍事計画『千人計画』に協力している」と主張していた人々と、トランプが吠えた「不正選挙」論に共鳴する人々の多くが重なることだ。背景には共通するものがある。中国とナショナリズムが絡むことだ。
私が観察するところ、彼らがトランプ再選を待望する背景には、トランプ政権の強硬的な対中政策があり、日本の技術が中国の軍事に転用されるのではないかという「恐怖」がある。詳しくは「文藝春秋」12月号のレポートに記したので、ここでは要点のみを記載しておこう。
「中国の軍事研究『千人計画』」に日本学術会議が積極的に関わっている」とする陰謀論的な“ニュース”は、右派色の強いまとめサイト「アノニマスポスト」が、自民党税調会長・甘利明の過去のブログを元に拡散した。その“ニュース”は瞬く間にネット上に広がり、学術会議、そして後述するように在中日本人研究者への根拠のない「反日」バッシングへと発展していった。
アクセス数目当てのまとめサイト
この手のまとめサイトはネット広告を収入源にしたビジネス目的のサイトであり、右派でもなく左派でもなく、極論と人目につく見出しが優先され、正確性は二の次でアクセスを稼ぐことにしか目的はないものだ。
こんなサイトにうまく使われた甘利にも気の毒な側面はあるが、脇が甘い発信だったのもまた事実だ。彼自身もそこは認識していたらしく、問題発覚後も「日本の学者を厚遇で引っ張って研究と知識を全部吸い取ろうという計画。日本の研究者も十数人参加している」と主張してきた甘利も、ついに10月12日付のブログで、表現をあらためるに至った。
しかし、陰謀論は瞬く間に広がり、それについては全く認識があらためられた様子はない。