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2020/11/17

「千人計画」に協力している根拠などないが……

 そもそも、学術会議が「千人計画」に積極的にせよ間接的にせよ協力している根拠はあるのかといえば、全くない。これは日本政府が公式に認めている。

 加藤勝信官房長官は記者会見で学術会議と「千人計画」との関係に言及し、「多国間、2国間の枠組みを通じた学術交流を行っているが、中国の『千人計画』を支援する学術交流事業を行っているとは承知しておりません」と明確に否定している。学術会議側も同様の主張を繰り返しており、両者の間には対立も隔たりもない。

 右派がことさら問題視する学術会議と中国科学技術協会との覚書にしても、2015年、安倍政権下で交わされたものであり、「出版物の交換や科学技術の会合、セミナー/会議等を含む学術活動の情報交換を行うこと」など科学者間の交流を主体とする抽象的な言葉が並んでいるだけの文書だ。この中に「千人計画」という言葉すら出てこず、現実に動き出したプロジェクトはこの5年間で何もないに等しい。

甘利明・元経産大臣 ©文藝春秋

そもそも軍事研究目的でもない

「千人計画」は、イコール軍事研究を意味しているのか。これも否である。「千人計画」は2008年に始まったが、当初の目的はアメリカやヨーロッパの大学で成果を上げた中国人研究者を呼び戻すことを主な目的としていた。2010年以降は、40歳以下の若手に向けた「青年千人計画」もスタートした。シニアの著名研究者は1億円程度、青年版は数千万円が上乗せされるという。

 両方とも外国人も参加できることが、「研究者の経験知識を含めた研究成果を全て吐き出させる」(甘利のブログ)という見方につながっているが、実際に参加している在中日本人研究者に聞けば、「実態は、中国の大学からノーベル賞を生み出すほうに明らかに力点が置かれている」という。

 だが、こうした現実は、ネット世界の右派コミュニティがイメージしている「中国」とはそぐわないため、まったく相手にされない。そして、根拠なきバッシングだけが繰り返されるのだ。当の甘利自身が、アメリカ大統領選挙の不正論に対して懐疑的な見解を示すツイートを発表した瞬間、右派からバッシングの対象になったのは、この上なく皮肉な展開である。