科学者バッシングで「国益」が損なわれている
トランプ政権誕生以降に進んだインターネット研究で、繰り返し確認されてきたのは「陰謀論を信じる人は特異な人ではない」「人は見たい現実を見る」という事実だ。既得権益(と彼らがみなすもの)への反発、メディアへの不信感、変化への不安、不満などが契機となり、人は陰謀論へと足を踏み入れていく。不安を何らかの「論理」で埋めようとする行為は、まったくもって合理的で、政治的な右派も左派も関係なく、人間が誰しも陥ってしまうものだ。だが、それを社会的に公言するかどうかは別の問題である。
一連の騒動も同様だ。トランプからバイデンへ変化することへの不安、中国への不信感、自分たちは虐げられているという不満――。それを誰かを対象にして吐き出すことで毀損されるものがあるという現実に、もっと目を向けるべきだろう。その一つが安全保障だ。
本当に安全保障を大切だと思っているのならば、国が主導して科学者に目的ありきの研究を「やらせる」方法には限界がある。むしろ、科学技術関連の予算を大幅に増やして、研究者に自由に研究を進めてもらい、イノベーションの中から使えそうな技術をピックアップするやり方のほうが機能する。
中国に職を求めた研究者を批判する極端な排外意識は、「不都合な現実」を陰謀論で埋めて、大切な問題を覆い隠す。リアリズムに基づく科学技術と安全保障の議論が進まないばかりか、科学者バッシングの横行する国で、損なわれるのはやはり「国益」に他ならない。
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石戸諭氏による「中国『千人計画』デマに踊る国会議員たち」は「文藝春秋」12月号および「文藝春秋 電子版」に掲載されています。
中国「千人計画」デマに踊る国会議員たち