その日、彼らがもう赤い人でないのだと自分の目で見るため神宮球場へ足を運んだ。

 2018年4月3日、ヤクルトスワローズ主催試合神宮での今シーズン初戦である。泣くかな、と思ったけど涙ぐむまでで我慢できた。我慢した。広島弁で言うと「ブチこらえた」。

 神宮は難しい球場だ。2年前、私はスポーツ新聞の野球担当記者を主人公にした漫画を描いた。あちこちの球場で記者さん球場スタッフさん球団職員の方からお話を聞くことができ、取材は実に楽しかった。漫画は売れなかった。

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「神宮は打ち合いになる?何故だ」「特殊だからさ」

 神宮グラウンド内で試合前の練習を見学しながら広島担当さんから聞いた「神宮を好きだという投手は聞かないなあー」という言葉。ベテランの記者さんがそう言うのだ。狭くてホームランが出やすいから? と聞き返したが、理由は他にもあった。

 グラウンドの傾斜が特殊だからだそうだ。真ん中二塁あたりが一番高く、外野へ向かってぐんと低くなる。

©石田敦子

 この傾斜で打者はバッターボックスから「打ち下ろす」意識で打てる。外野へ向かって球を打ち下ろす。なるほど。感覚として打ちやすい、らしい。神宮記者席は半地下にあり、座るとグラウンドが目の高さにある。そこから外野を見ると選手の上半身しか見えない。埋もれてた。たしかに外野は低かった。

©石田敦子

 だからか、神宮は打ち合いになることが多い。点を取った以上に取られて負けるパターン。広島は以前はよく打ち負けていた。どこ相手にも負けてたけど。

 ブルペンのない神宮は登板予定の投手がグラウンドのはしっこで窮屈そうに準備の投球をする。ファールボールが後ろ頭に飛んでくる危ない場所だ。プレーの真横過ぎる。ファールボールから準備中の投手捕手を守る役目の選手がグラウンドに向かって必ず立たねばならない。今村投手が立ってたりね。君が立つんかい。自分以外の選手に怪我の無いようずっと気を張ってるのはしんどかろう。次に投げるかもしれないのに。そのブルペンぽい場所の向こう三塁に、去年までは河田コーチがいてくれた。頼もしい赤い背中だった。