第三に、軍事統制経済の長期化が経済・社会を束縛している。国家予算の半分近くが軍事費と治安対策費に充てられ、財政赤字も拡大。若く有能なIT人材など百万人以上が国外脱出した。ロシア経済は技術開発が遅れ、資源依存、中国依存体制が一段と強まった。
第四に、ロシア各地では2022年2月のウクライナ侵攻後、これまでに一千件以上の中・大規模な爆発・火災が発生。連日のように現場の動画がSNSで拡散しており、負傷者は計一万人以上とされる。過失の可能性もあるが、ウクライナ軍のドローン攻撃も激化した。ウクライナのパルチザンやロシアの反体制派のテロの可能性も憶測される。情報統制下で調査結果が公表されておらず、国民の不安や疑心暗鬼を強めている。
くすぶるロシア国内の閉塞感
ロシアの世論調査では、70%以上がウクライナ侵攻を依然支持しているが、6月のプリゴジンの乱でワグネルがロストフナドヌーの南部軍管区司令部を制圧すると、若者ら市民が大量に集まって歓声を上げ、食料を差し入れたり、スマホで撮影する動画が発信された。SNS利用が巧みなプリゴジン氏は、エリートの腐敗を非難したり、「ウクライナは主権国家だ」と戦争目的を否定したり、「即時終戦」を訴えたこともある。社会の閉塞感への不満と現状変更への欲望が、ワグネルへの歓声につながったようだ。
新興ネットメディアでは、プーチン氏の後継者予測が論じられるようになった。プーチン氏の5選が確実と言い切るのは、まだ早いかもしれない。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2024年の論点100』に掲載されています。