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2024年の論点

「後進につないでいかなくちゃいけない」市川猿之助(48)が語っていた歌舞伎のミライ

「後進につないでいかなくちゃいけない」市川猿之助(48)が語っていた歌舞伎のミライ

2024/01/01

source : ノンフィクション出版

genre : エンタメ, 芸能

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猿之助は自らの性格をどのように捉えていたか

 そこで猿之助だが、彼と言えども自由に采配を振れたのは漫画やゲームなどを元にした新作の世界でだけ。しかしそれだけにしても舞台の中央に立つ役を体験させられた若手たちは、そこで何かをつかみ、従来の古典歌舞伎を演じる際にも生き生きと光を放ったのではなかろうか。

 そう思うとこれからしばらくの猿之助の不在は、伸びざかりの若手たちのことを考えると憂慮に堪えないが、必ずや近い将来に何らかの形で復帰となることを希望してやまない。

 猿之助は自らの性格を分析して、

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「熱しやすく、さめやすい。几帳面で、だらしない。芝居が大好きだけど、飽きっぽい。だから芝居を作るまでが楽しいんで、作っちゃったらもう、誰かやってくんない? みたいになる。かと言って、僕が考えた役作りをそのまま人に渡しちゃうのも口惜しいしね(笑)」

 と語ったことがあった。表舞台に返り咲くことを切に望むけれど、脚本家、演出家としてでもまたその才能を振るう日の近いことを願っている。

 

これまで幾度となく危機に見舞われた歌舞伎界

 歌舞伎界は、過去に何度も存亡を危ぶまれたことがあった。古くは明治の劇聖九代目市川團十郎と五代目尾上菊五郎が相次いで没した時。それから戦後間もなくは名優六代目菊五郎と初代吉右衛門が逝き、その後の歌舞伎界を支えた三兄弟、十一代目團十郎、八代目松本幸四郎、二代目松緑。そして十七代目勘三郎。七代目尾上梅幸、六代目中村歌右衛門といった実力者たちが没して、これも大きな危機だった。

 続いて最近の予期せぬ不幸は、十八代目勘三郎、十二代目團十郎、十代目坂東三津五郎というまだ壮年の人気俳優が相次いで亡くなったこと。この時ばかりは劇場の灯がいっとき消えたような寂しさだった。

 しかしその後の若手たちの奮闘ぶりはめざましく、平成の三之助(辰之助・新之助・菊之助)と言われた四代目松緑、十三代目團十郎、五代目菊之助に加えて、四代目猿之助、十代目松本幸四郎、中村勘九郎・七之助兄弟、中村獅童などが歌舞伎に活気を取り戻させた。

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