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 こうして場所を問わず、日常に溶け込む姿は、往年の“過激な女”というイメージからはほど遠い。もっとも、一方では、《家庭での顔と女優の顔は、まるで違います。仕事場は本当に神聖な場所ですし、大勢の人が思いを同じにして一つのことに懸ける厳しい場所だから、家庭的なものは、一切そぎ落として入りたい》と、プロとしての矜持も忘れてはいない(『婦人公論』2008年6月22日号)。

「昔よりゆっくり、じっくりでいいのでは」

 かつては、映画には先述の10年間の空白を挟みつつも1年に1本のペースで出演してきたが、ここ何年かは断続的になっている。フィルモグラフィを見ると、2015年に7年ぶりとなる映画『愛を積むひと』に出演したのち、現在まで新作はない。ドラマも2020年に『コタキ兄弟と四苦八苦』の第4話にゲストとして久々に出演したものの、ここ数年はご無沙汰である。

2007年以来、ソフトバンクのCM「白戸家」シリーズに母親役で出演 ©時事通信社

 それでも現役感を失っていないのは、2007年以来、ソフトバンクのCM「白戸家」シリーズに母親役で出演を続けているということもあるのだろう。現在も、中居正広と共演する新作が放送中だ。思えば、このシリーズは、夫が「犬のお父さん」という非現実的な設定ではあるものの、娘役の上戸彩らと長らく家族を演じ、樋口にとってもう一つのホームとなっている。

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 いまのところ最新の出演作である『愛を積むひと』と『コタキ兄弟と四苦八苦』で、樋口は奇しくも、人生の終焉に向けて準備をする女性をあいついで演じた。現在の平均寿命からすれば50~60代でこうした役どころはちょっと早すぎるような気もするが、同時に、いまの樋口にはまさに適役とも思わせる。それも生活を大事にするイメージが、見ているこちらにすっかりすり込まれているからだろう。

 10年ほど前のインタビューを読むと、《女優としては、昔から同じような役を繰り返すのが苦手なので、新鮮な役が来たらやりたいですし、昔よりゆっくり、じっくりでいいのではないかという気がしています。ただいつも、さまざまな物事に反応できる力は鈍らせたくないので、そこは大事にしていきたいですね》と、マイペースななかにも、いざこれぞと思う役を見つけたらいつでも挑もうという野心をうかがわせる(『婦人公論』2012年9月22日号)。それだけに、そろそろ女優・樋口可南子の新たな面を見てみたいところである。