何度もレッドカード叩きつけられて終わりそうに
春日 僕が橋本さんに最後にインタビューしたときは90歳を越えてましたが、2時間、3時間でも平気で喋りっぱなし。ものすごいタフでいらっしゃいましたからね。
玉袋 春日先生よく言ってたけど、インタビューはものすごい緊張感だったんでしょ? これほど怖い人はいなかったって、何がそんなに怖かったのさ。
春日 基本的にはニコニコしていて語り口も穏やかで、気分良く喋ってくれているんですけどね。ただ、「幅」というんですかね。少しでも、当人の中にある幅から外れてしまったら、全てが終わってしまうような。ものすごく細い断崖絶壁の上を歩いている感じがありました……。
玉袋 春日先生はこれまでもすごい大御所の人たちもインタビューしてきているけど、それともまた違うんだ。
春日 大御所の方々は、基本的には幅が広いんですよね。ですから、こちらもストライクゾーンから多少外れた質問を試しに投げてみる余裕はあるし、相手もそのボールを捕ってくれるんです。ただ、橋本さんは当人の想定するストライクゾーンから外れた球を投げたら一発退場という感じはありました。ご本人が事前に想定した流れやテーマから離れた質問にはミットすら動かしてくれない。何度もレッドカード叩きつけられて終わりそうになって、その度に頭も下げています。
玉袋 コントロールしているようで、橋本先生の意図通りに投げさせられているんだろうなぁ。おっかないねぇ。
春日 あの方をコントロールするのは不可能ですね。インタビューが終わった後はいつもものすごい脱力感で、強めの酒を飲みたくなりました。その分、達成感のある取材もあったんですけどね。『砂の器』の話が詳細に聞けた時なんかは嬉しくてたまらなくなり、もう行きつけのバーで一番高いワンショット3万円のウイスキーを飲んでしまいました。
玉袋 すごいんだねぇ。うちの親父世代の人たちも「映画は黒澤だ」とか言いながら『生きる』や『七人の侍』で脚本を書いた橋本のハの字も語らないし、俺だって橋本忍のことたいした知識もなくて本当に恥ずかしいんだけどさ。この橋本忍の人生をこの本で読んでいると、生い立ちから何から本当なのかってことばかりだよね。
春日 ねぇ。どこまでが本当なのかは分からない点もありますが――。
玉袋 ダハハ。帯には“全身脚本家”ってありますけどね。これ本当に、どこまでが本当なのか。自分自身を脚本にしているかのような、不思議な人だよね。
春日 そうなんですよ。この本を読んでいただければわかると思うんですけど、これまで本当だと思っていた話が実は「錯覚」だと判明したり、一方で「これはさすがにホラ話だろう」と思ったエピソードの裏をとったら本当だったり。そこはさすが一流の脚本家でした。やはり自分の人生でも作品というか、エンターテインメントにしちゃうというところがあるのかもしれません。
玉袋 喋っているうちに何かが乗っかってきて、できあがっちゃうんだよな。大仁田厚みたいなもんだよ。