芸能人の逮捕や不祥事が発覚したあとに関連作品の放送が見送られたり、公開が延期されたりする事例が相次いでいる。2023年6月16日に俳優の永山絢斗が大麻取締法違反の容疑で逮捕されると、WOWOWは永山が出演する映画・ドラマの放送を中止。NHKは「NHKオンデマンド」で配信していた朝の連続テレビ小説『べっぴんさん』などの配信停止を決めた。

 あるいは2023年6月27日、歌舞伎役者の市川猿之助が母親への自殺ほう助容疑で逮捕されると、「NHKオンデマンド」では大河ドラマ『鎌倉殿の13人』『龍馬伝』『風林火山』などを含む全8タイトル合計158本の販売を停止した。

7月、保釈直後の市川猿之助

「作品に罪はない」論

 近年は、こうした上映中止や配信停止が発表されるたびに、その自粛措置に対して「作品に罪はない」という言い方で異議が表明される。この「作品に罪はない」論は、2019年にミュージシャン・俳優のピエール瀧が麻薬取締法違反容疑で逮捕され、ピエール瀧の所属する「電気グルーヴ」のCD・音源が回収、出荷・配信停止となった際に、ミュージシャンの坂本龍一がツイッター(現X)に「なんのための自粛ですか?(中略)音楽に罪はない」と投稿したあたりから盛んに目にするようになった。

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ピエール瀧 ©文藝春秋

 ただ、この言葉には耳触りのよさがある反面、いまひとつ的を射ていないような違和感も残る。そもそも権利者は、作品に込められたメッセージの正誤性を理由に停止・中止措置を講じているわけではない。多くの場合、権利者が作品イメージを含めた損失を回避するために自粛を行っているのであって、作品の善悪は問題ではないのだ。あわせて権利者は、不祥事や犯罪への態度を早急に表明する必要があり、それを怠ると、あたかも犯罪を容認しているかのような、誤ったメッセージを世間に流すリスクが生じてしまう。