公開や配信が中止された作品
さらには被害者への配慮という観点からも、早急な対応が求められよう。「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載中だった『アクタージュact-age』(原作:マツキタツヤ、漫画:宇佐崎しろ)は原作者が2020年8月に未成年の少女への強制わいせつの容疑で逮捕されると、編集部は連載終了と単行本の無期限出荷停止、電子版配信の取り止めを決定。
また、2022年3月に映画監督の榊英雄が複数の女優に性行為を強要したと「週刊文春」で告発された際には、公開を控えていた『蜜月』『ハザードランプ』の劇場公開が中止された。
そして、2022年10月に人気ゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』やアニメ『アイドルマスター シンデレラガールズ』などに楽曲を提供していた作曲家の田中秀和が10代の女性への強制わいせつ未遂の容疑で逮捕されたケースでは、CDの販売やダウンロード配信が中止された。
とりわけ演者ではなく実作者(監督や著者など)が犯罪を起こすと、作品性や作品に込めたメッセージが歪曲して伝わる危険性があるため、一時的にせよ、公開範囲を限定する措置に妥当性は認められやすく、作品の“お蔵入り”を「やむなし」と受け止める人が多かったようだ。
利用者側の「観ない、聞かない」権利も
とはいえ、作品の回収や上映中止、配信停止といった自粛措置が、犯した罪に対して適切かどうかは疑問が残る。裁判を経て刑罰を受ける前に行き過ぎた自粛で社会的制裁がくだされるのは、適正なのだろうか。
また、作品を提供する媒体がテレビやラジオであれば、不特定多数が意図せず目や耳にする可能性があるので、自粛するかどうかの判断基準が厳しくなることに理解を示せるが、映画や配信の場合、利用者が観るかどうかを選ぶことができる。利用者側が「観ない、聞かない」権利を行使できるわけだ。そうした「選択する権利」が一方的に阻害されているために、利用者は否定的な感情を増幅させてしまう。