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「作品に罪はない」というフレーズが適切かどうかはさておき、行き過ぎた自粛に「やり過ぎ」との思いを抱いた人々が、その思いを「作品に罪はない」という言葉に仮託している現状は、決して見逃していいものではない。

 権利者としては、世間の空気を先読みして自粛策を取ったはずなのに、かえって反発を招いてしまったと、忸怩たる思いはあるだろうが、ジャニーズ事務所における性加害問題を引き合いに出すまでもなく、犯罪者が出た際の対応は、エンタメ業界における喫緊の課題となっている。

裁判所が判断するケース

 なお、作品に「罪があるかどうか」を裁判所が判断するケースも出てきた。2019年に公開された映画『宮本から君へ』(真利子哲也監督)は、文化庁の独立行政法人の日本芸術文化振興会(芸文振)が1000万円を助成することが内定していたものの、出演者のひとりであるピエール瀧が不祥事を起こし、芸文振は「公益性の観点」から助成金交付を取り消した。

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 これに対し映画製作会社「スターサンズ」が助成金交付を求め裁判を起こしたところ、2021年の一審東京地裁判決では「観客が『国は薬物乱用に寛容だ』とのメッセージとして受け取るとは認められない」とし、芸文振の不交付処分を取り消した。ところが2022年の二審東京高裁判決では、「著しく妥当性を欠いているとは言えない」として芸文振の不交付処分を適法としたのである。これを受けてスターサンズ側は最高裁に上告。2023年11月、最高裁は、「不交付は著しく妥当性を欠き、違法だ」として不交付決定を取り消した。

 いっぽうでNHKは、2023年7月26日、「NHKオンデマンドでは出演者の逮捕などの不祥事を理由とした配信停止は今後、原則として行わない」との方針を打ち出し、市川猿之助や永山絢斗の過去出演作品の配信が再開された。

 ここまで見てきたように「作品に罪はない」という言葉をめぐる周辺状況は、めまぐるしく変化している。この新しい社会課題に対しての“社会正義の落としどころ”が定まることに期待がかかる。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2024年の論点100』に掲載されています。