開催の意義や運営の巧拙、経済合理性や安全性……。さまざまな角度から語られている大阪・関西万博である。ここでは万博を、アートに着目して眺め直してみたい。
万博をひとつの大きい展覧会と捉え、メインテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」を展示コンセプトと読み替えて、アートをどれほど楽しめるかという観点から会場を巡ってみた。
大屋根リングの木組みの美しさ
敷地内へ足を踏み入れると、だれの目にも真っ先に飛び込んでくるのが「大屋根リング」だ。会場をぐるり取り囲み、全長は2キロに及ぶという。高さも想像以上で、その迫力は聞きしに勝る。
しかもこの巨大建造物、木造であるというのだから驚きがいや増す。構造としては柱に穴を開け、そこに梁を通し、楔で止める「貫(ぬき)の工法」を採用している。京都・清水寺の「清水の舞台」を支える下部木組みと同様の伝統工法である。
ただし大屋根リングでは、楔の部分に金属を用いており、そのさまは地上から視認できる。設計を担当した建築家の藤本壮介の説明によれば、建築基準法をクリアするには純木造とするわけにいかなかったという。
リングの下に潜り込んで見上げてみれば、柱と梁が整然と、そして延々と続いていくさまが美しい。ただ願わくば、伝統工法のみでつくられた純木造の建造物を見たかった。たとえサイズが小さくなっても、そのほうが「受け継がれてきた業と美」をより感じられたのではないか。
大屋根リングは、エスカレーターや階段で昇ることができる。上部は中空の遊歩道といった趣で、眺めも壮観。周囲が海なので遠くまでよく見える。大阪という大都市に居ながら、これほど開けた景観が得られる場は稀有だ。人に改めて空を見上げる機会を持ってもらう、そのための大掛かりな装置であるともみなせそうだ。
オノ・ヨーコの作品で「空」を共有する
大屋根リングを降りて、会場中心部へと向かう。そこには「静けさの森」が広がっている。1500本超の樹木を移植した緑地帯だ。一帯のあちこちに、アート作品が点在しているという。
探してみると、小路の分岐点の地面に、ぽっかりと穴が開いており、内側が明るい青色に染まっているのを見つけた。何事かと覗き込めば、穴のなかに鏡が仕込まれており、空の青色を映し出しているのだった。天地が一体化したような錯覚にとらわれるこの作品は、オノ・ヨーコの《Cloud Piece》だ。
思えば空に国境などなく、見上げれば空はいつでもだれとでも共有できるということを、森の中の小さい穴が教えてくれている。「いのちをつなぐ」という万博のサブテーマとも、よく響き合う作品である。