夫ジョン・レノンとの活動で広く知られるオノ・ヨーコは、20世紀半ばから現在に至るまで、世界のアート・シーンにおける重要人物として名を馳せてきた。周囲の環境とみごとに呼応した今作を見れば、彼女がいまなお表現の最前線にいることがわかる。

 森を歩いていくと、頭上にワイヤーで吊るされた動物の巣のような彫刻が現れる。トマス・サラセーノによる作品《Conviviality》だ。この「巣」は徐々に森の生態系の一部となっていくことが想定されている。鳥やクモ、昆虫らさまざまな生きものに利用してもらい、生物多様性を体現する場として機能してくれたらという。

トマス・サラセーノ《Conviviality》

 さらには、木々が途切れて開けた場所には《Infinite Garden - The Joy of diversity》がある。金沢21世紀美術館に恒久展示されている《スイミング・プール》でも広く知られた、レアンドロ・エルリッヒによる作品である。円柱状のこぢんまりとした建築物に、十字状に切れ目が入っている。壁面は鏡になっており周囲の景色を映し出すので、近づいて覗き込むと自分が美しき異界へ迷い込んでしまった錯覚に陥る。視点を変えれば世界は多様な姿を現すことを示す展示だ。

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レアンドロ・エルリッヒ《Infinite Garden - The Joy of diversity》

宮田裕章のシグネチャーパビリオンでアート三昧

 8人のプロデューサーがそれぞれ万博テーマを深掘りし表現する「シグネチャーパビリオン」では、データサイエンティスト宮田裕章による「Better Co-Being」が、アートを満載している。屋根も壁もなく、グリッド状の天蓋が上空に浮かぶのみの屋外型パビリオンとなっており、その下で「共鳴」をテーマとしたアート体験ができるのだ。

 まず現れるのは、塩田千春《言葉の丘》。赤い糸が無数に吊り下げられた空間の内側に、多言語の文字や椅子と机が浮かび上がるというもの。繊細な糸の一本ずつが、ふだんは目に見えない「つながり」を可視化しているといえそうだ。

塩田千春《言葉の丘》

 続いて体験できるのは、宮島達男《Counter Voice Network - Expo 2025》。設けられたスロープの両脇に30個のスピーカーが並び、さまざまな言語で9から1までカウントダウンされる音声が聞こえてくる。耳を澄ませていると、カウントダウンされているあいだがその人の一生であろうかとも思えてきて、0を発声しないのは死の訪れの象徴とも読み取れる。音声のみによって、生命や時間の存在をありありと感じさせる作品である。

宮島達男《Counter Voice Network - Expo 2025》

 ほかにも、光を受けて透明な装飾が輝く宮田裕章with EiM《最大多様の最大幸福》や、人工の雨を降らせ虹を発生させようとする宮田裕章《共鳴の空》など、外気のもとで映える作品が続々と体験できて、密度の高い展示が実現されている。

宮田裕章with EiM《最大多様の最大幸福》、宮田裕章《共鳴の空》