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日本の悩める若者がアンパン持ってやってくる

――やはりおいしそうなものを目にすると、食欲も湧くんですね。

佐々井 そうだな。それと最近、日本の若者たちが俺を訪ねてインドまでやって来るんだが、皆、アンパンをお土産に持ってくるんだ。おそらく、今年、放送されたTBSの「世界ふしぎ発見!」(注:好物を聞かれて「アンパン」と答えていた)を見たんだろう。うまいからついいくつも食べちゃうんだ。しかし、俺は糖尿があるから、食べると決まって調子が悪くなる。だから、最近は1個だけ食べて、あとは信者たちに分けておる。

――インド人はアンパンは食べますか?

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佐々井 珍しいから気に入っておるようだぞ。

――ところで日本の若者たちは、なぜ佐々井さんの寺までやってくるのですか?

佐々井 悩みを抱えているからだ。若者といっても、40歳、50歳くらいの男が多いんだがな。もう中年だが、悩んでおる。

 彼らは、テレビで俺を知り興味を持って、それでお前が俺を取材して書いた本(「佐々井秀嶺、インドに笑う」文藝春秋)なんかを読んで、この坊さんなら自分の悩みを分かってくれるかもしれないと言うんだ。

 日本はインドと違って豊かでカーストも差別もない。だからそんないい国で俺なんて必要とされないだろうと、インドに来てから44年間はずっと帰国しなかった。インドは問題が山積みだからな。それが今になって悩みを抱えた日本人がアンパンと本を持ってインドまでわざわざ訪ねて来る。

――どんな悩みを抱えているんでしょうか?

佐々井 それがみな口をそろえて「道が見えない」というんだ。自分がどうしたいかがわからない。それで仕事をやめて、インドまで旅に出るんですよ。旅先で何か生きるヒントを見つけようと、気持ちが焦っているようなんだ。

――道が見えないとは?

佐々井 国力のない日本にいても将来が不安だから海外で暮らしたいと。オーストラリアやアメリカに移住したいという奴もいる。ちょっと前までの若者は、田舎の家や田畑を捨て、都会に出て行ったのだが、今は国を捨て自分だけが助かりたい。そう考えているんだ。

「お前の宗教は何か?」と聞くと、「一応、仏教徒だと思う」と答えるんだ。宗派は何かと聞いても、「分かりません。田舎のおじいちゃんは仏壇に手を合わせてるけども、そういう話をしたことない」と。幼いころからインドのように地域のお坊さんと顔を合わせていればいいのだが。

――私も信仰心が薄い「なんとなく仏教徒」の一人ですが、葬式も戒名も墓もいらないといった若者や中年は珍しくないのではないでしょうか? 檀家さんでもないとお坊さんに気軽に相談するのは難しいかもしれません。

佐々井 ああ、だから日本の寺が減るわけだ。今回も久しぶりに来日したが、以前は大きな寺に行くと参道は人でいっぱいだったのに、コロナが明けたにもかかわらず、人が少なかったのが気になった。信仰心がさらに薄れているのかもしれないな。