インドが俺を人間にしてくれた――そう語るのは、何度も暗殺されそうになりながらもインド仏教復興のため尽力し、1億5000万人ものインド仏教徒の頂点に立つ日本出身の僧侶、佐々井秀嶺氏(88歳)。コロナ禍で4年ぶりとなった一時帰国を果たした佐々井氏に、驀進するインド仏教徒の様子と日本人がインド仏教徒に学べることは何かを聞く。(全2回の2回目/最初から読む)
日本に家のない人が増えていることの意味
――今年中国を抜いて人口世界一になったインドですが、佐々井さんから見て、インド人はどんな人々ですか?
佐々井 インドはやっぱり信仰の民族ですよ。ヒンドゥ教徒にキリスト教徒やイスラム教徒もいる。それぞれが自分の信仰に基づいて日々を送っているが、インド仏教徒は自分が貧しくても、道端に座り込んで困っている人があれば自分の食べ物を分けるし、僧には進んで供養(寄進)をする。
人だけじゃなくて牛も行列をつくって、托鉢に来るんだよ、モーモーといって。
――牛も托鉢に?
佐々井 うん。俺に懐いているんだよ。牛のほうも「ああ、佐々井上人だ」とか、見分けてくる。シッポを振ってね。やっぱり牛もインドの人々と同じように信仰心は持っていると思うんだ。
――徳のある人を牛も見分けるんですかね。
佐々井 ところで日本では施しとか托鉢とかの習慣はないけれど、今でも道に寝たりする人も多いだろう? そういう人がけっこう増えておるという話を聞くんだけど、どうやって生きているのか?
――ホームレスの方ですか? 廃棄のお弁当や炊き出しなどで命をつないでいると聞いています。
佐々井 そうか。しかしインドでは日本というのは、とても裕福な国だというふうに思われているんだよ。ところが家のない人が増えているということは、どういうことなんだろう? 日本だけじゃなく、どの民族も義理人情がもうなくなってしまって、個人主義になっているようなところが見受けられる気がするんだ。