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「インドが俺を人間にしてくれた」女を捨て成功者を妬み、三度の自殺未遂を経てインド仏教を復興させた“日本人僧”佐々井秀嶺が語る「今こそインドに学ぶこと」

佐々井秀嶺インタビュー#2

2023/12/31
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日本企業から「仏教徒のエンジニアを送ってくれ」

――今のインド仏教徒は、インド社会の中ではどのように見られているのですか?

佐々井 不可触民と虐げられていた時代は、肉の死体処理とかきつい農作業とかばかりで仕事なんて選べなかったんだ。昔は高カーストが仏教徒を弾圧していたから。だけど最近のインド企業は仏教徒をよく採用するようになったんだよ。

 例えばイスラム教徒の社長がいるガソリンスタンドがあって立ち寄ると、俺は顔が知られているから次々と従業員が「私も仏教徒です!」と駆けよって挨拶しに来る。それでガソリンスタンドの社長に「何でこんなに仏教徒を雇っているのか」と聞くと、「仏教徒は真面目で、盗んだり、嘘をついたりしないから」というんだ。

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――社会の中で仏教徒が信頼を得ているんですね。

佐々井 インドの中だけじゃないよ。ある日、知り合いの日本企業から「インド仏教徒のエンジニアを送ってくれ」って言われて。それで俺がナグプールで試験をしてね、50人ほど送ったの。そしたらよく働くっていうんで信頼されてまた送ってくれって。それで何度も送り込んでいたら、もう合計300人。

――インド仏教徒のエンジニアをそんなに採用している日本企業があるのは知りませんでした。

佐々井 もともとそこの会社では、多くのインド人エンジニアが働いていたみたいなんだけど、日本で夜遊びばかりして真面目にやらない若者が多かったんだと。

 でもインドの仏教徒はとても真面目なんだ。家が貧乏だから親への生活費や兄弟への学費を仕送りする。夜遊びはできないよ。さらに社会に貢献しようという気持ちも強くて、みんなで給料からお金を出し合い出身地の村に寺や図書館、小さい学校を作ったりする。ナグプールだけでもう8校もある。

 俺はもう年を取って生きる屍だけど、若者が頑張ってからインド仏教は強力になっているんだ。昔は不可触民は字なんて読めなかった。でも今は識字率がキリスト教徒に次いで、仏教徒が2位なんだ。驚いて新聞社が俺のとこにインタビューによく来るよ。

インド人にものを教えてやろうと上から目線で来る日本人

――インドで56年。佐々井さんがインド人に学んだことは?

佐々井 もう、全てをインド人に学んだと思う。日本人はインド人を下に見ている人が多いけれど、インド人にはいいところがたくさんあるんだよ。人を思いやる心はすごいし、薄情なところは見られないんだ。

 しかし、インドに来る日本の宗教者や日本企業の人らは、インド人にものを教えてやろうと上から目線で来る。俺がインドに来たばかりの時にも、仏教を広めようとした日本の名僧がいてな。彼はインド人を「新仏教徒」と呼んで、「新仏教徒を教義する」と上から目線だったんだ。