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――コロナ禍なのに、80代の佐々井さんもお弁当を配って歩いたのですか?

佐々井 外出禁止令が出ていたのだが、(様々な役職にある)俺は車での移動許可証をもらえたんだ。その許可証をフル活用して、ドライバーと一緒にワゴンに弁当を積んで配っていた。途中、警察に道で止められてもそれを見せれば大丈夫なんだ。

――インド全土でそうした活動があったのでしょうか?

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佐々井 どこかであったかもしれないが、ほとんど聞かないな。カーストの高い上流階級はそんなことには見向きもしないよね。コロナが移っちゃいやだから。しかし、中には我々、仏教徒の活動に感銘を受けて、少数だがバラモンやイスラム教徒の若者も手伝ってくれたのは嬉しかったな。

 ただ、俺の寺の金はすっからかんよ(笑)。おまけに無理がたたって俺自身がコロナにかかってしまった。もう苦しくて、苦しくて。

――命がけの活動だったんですね。

佐々井 坊さんが見て見ぬふりはできないからな。よほどつらかったのだろう、涙を流して弁当を受け取ってくれた者もいた。俺だって若い頃、空腹でフラフラになって歩いていたら秋田で見知らぬ娘から、オニギリをもらったことがある。その時のありがたさは今も覚えているよ。昔は日本も義理人情があったからね。

インドには米にもカーストがあるんだよ

――オニギリといえば、久しぶりの日本の食事はどうですか?

佐々井 美味しいねえ。今、お世話になっておる四ツ谷のお寺の奥さんが作ってくれるご飯がおいしくて。煮物とか、たくあんとか、お吸い物とか。やっぱり日本のお米はすごいんだ。

『佐々井秀嶺、インドに笑う』の取材中、佐々井さんに日本食を作ると喜んでくれた。ナグプールの寺にて(写真提供:白石あづさ)

――インドはサラサラしたお米でしたよね。

佐々井 ああ。インドの坊さんは自分で食事を作らず、信者たちの日々の供養(寄進)によって生かされておる。しかし、僧が好き嫌いを言ってはいかんのだが、コロナになってからインドの米の匂いがダメになって……。インドには米にもカーストがあるんだよ。知ってるか?

――米にカースト!?

佐々井 不可触民出身(ダリット)のインドの仏教徒は、さっきも言った通り、どん底の下層民衆だから、一番、最低の米しか買えない。

 ずっとインドの米が食べられず食欲がなかったのだが、インドにやって来た日本人が俺にレトルトの梅がゆをくれてな。日本のスーパーで100円くらいで売っているらしいんだが、それがうまくて。おかげで生きながらえた。