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――佐々井さんはどうやって国を愛する心を学んだんですか?

佐々井 戦前は小学校から「修身科」があったからなあ。今も道徳の時間はあるようだが、「修身科」は自分のことだけではなくて、弱い人を助けて、国を良くしていこうと考える重要な授業だったんだ。

 家に帰っても清水次郎長や里見八犬伝とか、まわりの大人たちに浪曲や講談を聞かされていたから、その影響も強いかもしれないな。

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佐々井さんの書斎には愛読書や映画のソフトがたくさん(写真提供:白石あづさ)

 世界をもっと平和に良くしていこうという民衆の心や、人間の行くべき道が示されている。

 貧乏に耐え、そして苦しくても人を妬まず、国のために尽くす。俺はそんな愛国精神に心が震えたんだ。

日本人はお寺でまず自分や家族のことを祈るだろう

――青年時代、道を踏み外した佐々井さんですが、また真人間に戻れたのは、幼い頃、叩きこまれた道徳心があったからかもしれませんね。何か私たちも日常で意識できることはありますか?

佐々井 今の日本人は、お寺で手を合わせる時、お金とか健康とかまず自分のことや家族のことを祈るだろう。そしてお金があれば自分のために使う。それは悪いことではないが、インド仏教徒では子供であってもまず世界平和を祈る。

 そして自分の国や世界がよくなるように日々祈り行動する。さっき話したコロナ禍の時のように困っている人がいたら、自分が食べるものが少なくなっても分け与えるんだ。

 だがうちの寺の若者はみんな日本に憧れておる。

「日本は美しい国で、人々は真面目で、仏教の歴史も深い。カーストもなく、平和で安全で豊かで、仕事も自由に選べ、誰でも教育も受けられるんですよね。佐々井さんの生まれた日本にいつか行ってみたい」とね。我が祖国は、インド人から見たら今も夢のように素晴らしい国なんだ。日本の悩める若者たちが、将来に希望と愛国心を持って暮らせることを俺は心から願っている。

――ありがとうございました。後編では、驀進するインド仏教徒から日本人は何を学ぶかをお聞きします。