「今年度アカデミー賞最多12部門13ノミネート!」と、大きく喧伝された『エミリア・ペレス』(監督:ジャック・オーディアール)が3月28日、日本でもついに公開となった。
メキシコの麻薬カルテルのリーダー、マニタスは貧しさゆえに犯罪者となり、マッチョでなければ生き残れない世界をサバイバルしてきたが、実は女性として生きることを渇望していた。メキシコシティの弁護士リタ(演:ゾーイ・サルダナ)は腐敗した司法に絶望し、大金と引き換えに危険を承知でマニタスと関わっていく。
リタの手配によって性別適合手術を受けたマニタスは過去を捨て、エミリア・ペレス(演:カルラ・ソフィア・ガスコン)として人生を再開する。そんなマニタス/エミリアとリタによって人生を翻弄されるのが、マニタスの妻のジェシー(演:セレーナ・ゴメス)だ。
エミリア、リタ、ジェシー。3人の女性の人生が交錯し、やがてエミリアの過去が暴力とともに3人を追い詰めていく――。米国在住の筆者は、本作をNetflixで鑑賞*したが、3人の女性の複雑な愛憎劇に犯罪アクションを絡ませたスリル満点の、これまでになくユニークなエンターテインメント・ミュージカル映画だと感じた。
*北米では2024年11月13日よりNetflixで配信されている。日本でのリリースは本記事の配信時点で未定
主演・カルラの差別ツイートが拡散され批判
しかし、『エミリア・ペレス』は今年3月2日(現地時間)のアカデミー賞を前に、まさかの事態に陥ってしまった。主演のカルラは、アカデミー賞史上初めてトランスジェンダー俳優として主演女優賞にノミネートされ注目を集めていたが、彼女の過去の数々の差別ツイートが明るみに出たのだ。カルラの差別意識はイスラム教と黒人に向けられており、ツイート内容のあまりの酷さにカルラは厳しく批判された。アカデミー賞側はカルラのツイートへの言及は行わなかったものの、結局、『エミリア・ペレス』はほとんどの賞を逃してしまったのだった。
2020年9月、イスラム教徒の家族がレストランで食事をしている写真(父親は微笑み、母親は顔と全身を覆う黒いブルカを着用)を使い、カルラはイスラム教の男尊女卑を皮肉るツイートを投稿。
「イスラム教は男らしさが全くなく、素晴らしい。女性は尊敬され、尊敬されると、行儀よくしている場合にのみ、目と口が見えるように顔に小さな四角い穴が開けられる」