教育現場、米軍、DV被害者の支援団体にも影響が

 これに基づき、米国パスポートの性別欄からトランスジェンダー、ノンバイナリーの人たちが選んでいた「X」が抹消された。当事者たちは今後、空港での出入国審査時に不当な扱いを受ける可能性を恐れている。

 教育現場では、生徒が生誕時に割り当てられた性別以外の代名詞(she/he/theyなど)を使うこと、同じくトイレやロッカールームの使用が禁じられ、反すると学校への連邦資金が停止されることとなった。

 トランプは米軍からのトランスジェンダー排斥も試みている。この件は現在、地方判事によって一時的に差し止められているが、実行されると米軍は数千人を解雇することになると見積もられている。

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トランプ大統領 ©時事通信社

 各省庁の公式ウェブサイトからは「トランスジェンダー」という言葉と関連情報が削除されている。これまで使われていた「LGBTQ+」の表示が、「TQ+」(トランスジェンダー/クィア+)を省いた「LGB」(レズビアン/ゲイ/バイセクシュアル)に換えられた箇所もある。

 高齢者LGBTQ+への食事配給、LGBTQ+のDV(家庭内暴力)被害者への支援を行なっている団体も、連邦政府からの資金がカットされる可能性が高い。さらに刑務所に収監されているトランスジェンダー女性が男性房に、トランスジェンダー男性が女性房に移され始めていると伝えられており、これは深刻な虐待を招く可能性がある。

男女の区分をはっきりさせる社会を作り上げようとしている

 2月に入るとトランプはトランスジェンダーのアスリートが女子スポーツに参加することを禁ずる大統領令にも署名した。その際、トランプは大統領執務室に数十人の女児と女性を集めた。そのほとんどが白人で、人種/民族マイノリティは数えるほど。さらに髪を長く伸ばした女児/女性ばかりで、ショートカットの、いわゆる「ボーイッシュ」な女児も女性も見当たらなかった。

2025年2月5日、トランスジェンダーの女子競技への参加を禁じる大統領令への署名を終えたトランプ米大統領(中央) ©EPA=時事通信社

 トランプはトランスジェンダーだけでなく、人種/民族マイノリティも排除し、かつ男女の区分をはっきりさせる社会を作り上げようとしていることが見て取れた。

 アメリカにおける反トランスジェンダーの理由は、多くの場合、キリスト教に基づく。宗教右派は「神さまは男の子と女の子を作った」「男女は異なる役割を持つ」などと描いた幼児向けの絵本まで出版し、同性愛者以上にトランスジェンダーの存在否定を行なっている。