精神鑑定を担当したO医師は証人尋問で、こう話していた。
「言語的にも、非言語的にも、対人関係を発展させることが難しく、うまく成立させることができなかった。そのため、相手の心情を読み取ることができず、学校や職場でも一人になってしまう。母親が宗教団体に入信したが、その教義が科学的かどうかを区別ができずにいた。そんな中で、『東京卍リベンジャーズ』を知り、タイムリープを知った。言葉があるということは現象があるはずで、自分にもその能力があるはずという期待を持った。しかし、人生がうまくいかないため解決策として自殺を考えたこと、どうせなら好きな人と死にたいと心中を考えたことは、ASDの影響というわけではなく、状況要因が左右した」
きっちり性的サービスを受けるまでの段取りはつけていた
ちなみに、被告の男がAさんのサービスを受けるに当たり、予約の段取りをしていたことについて、男性従業員は、証人尋問で以下のように話していた。
男性従業員「前日の5月31日、いつもの通りに8時に出勤しました。11時半ごろ、被告の男から、6月1日にAさんを指名する予約の電話を受けた」
検察官「どんなやりとりでしたか?」
男性従業員「『電話ありがとうございます』というと、男は『6月1日、Aさんを指名したい』と言いました。『午後3時から空いています』と返事をすると、『午後3時から80分コースで』と、男からコースを指定してきました。その後、以前、(Aさんと)遊んだことがあるのかを聞きました。もし2回目の指名なら、店のシステム上、『本指名』となりますから」
検察官「なんと答えましたか?」
男性従業員「『あります』と言っていました。そのため、『当日は、1時間前に確認の電話をください』と言いました。男は『わかりました』と答えていました」
つまり犯行時は、性的サービスを受けるまでの段取りをこなしていた。また犯行についても、ASDの影響はありつつも、一般的な心理の影響や状況要因も関わっており、判決では、「被告人の意思決定を支配するほどの強い(ASDの)影響を有していたとは認められない」などとして、完全責任能力を認めた。
加えて、訴訟能力の有無も争点だった。被告の男が公判で不規則発言を繰り返しているほか、公判前整理手続きの段階からも同様の不規則発言は続いていた。また、同手続きの記述に出頭を拒んだり、弁護人や実父による接見も拒否するなど、統合失調症を発症した疑いがあり、公判手続きを停止すべきと弁護人は主張していた。
しかし精神鑑定をした医師によると、質問には概ね適切に対応しており、その時点では殺人等の罪に問われている状況を理解している、とした。