「アルコールを摂取するというのが楽しいというのなら家で飲んでてもいいわけだし、コンビニかなんかでお酒を買ってきて、公園で飲んでりゃいいわけですが、酒場で飲むというのはそういうことじゃないんですね」
歌手で俳優のなぎら健壱さん(71)が酒場通いを続ける理由とは……? 著書『アロハで酒場へ なぎら式70歳から始める「年不相応」生活のススメ』(双葉社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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飲めば死ぬ、飲まなくても死ぬ
あたしの好きな言葉に「飲めば死ぬ、飲まなくても死ぬ」というものがありましてね、それをあたしは座右の銘にしているほど。なんでもモンゴルだかの諺と聞いたことがあるような気がしますが、定かではありません。この言葉から何を感じ取るかは人それぞれでしょう。
根が素直なあたしは、額面通りに受け取って、飲んでも飲まなくても死ぬんだったら飲酒を楽しもうと、連日のように酒場に足を運んでいる。
アルコール依存症ではないけれども、1年間で酒を飲まない日は皆無といってもいいぐらいで、先だっての健康診断の前日にも飲んでいたし宿酔いでヨレヨレになって「当分は酒をやめよう」と殊勝なことを思っていても、酒場が開く頃には不思議なことに回復して、出かけていく。
ところで、健康診断といえば、よく人間ドックに入る数日前から酒をやめたりして、平素と違う生活を送る人がいますが、私はそんなことはしません。普段と同じように生活をする。それでなければ正しい数値など出るわけがないですからね。で私の場合、正しい悪い結果が出ることになる。
WHOの発表(2018年)によれば、アルコールが原因で世界では年間300万人以上が死亡し、その数は世界の全死亡者の5%を超えているそうですが、あたしは酒を飲まない人には愚行とさえ思う生活を50年も続けているというのに、死ぬこともなく、今年(2022年)、古稀を迎えました。
酒場には“プラスアルファ”があるんです
古稀というのは70歳の異称で、「人生七十古来稀なり」という杜甫の漢詩に由来しています。このことを知ってる人は多いでしょうけども、「朝回日日典春衣 毎日江頭尽酔帰 酒債尋常行処有」という前文を知ってる人は少ないんじゃないでしょうかね。
現代語に訳すと、「毎日朝廷の仕事が終われば春着を質屋に入れて、その金で酩酊するまで飲んで帰ってくる。酒代のツケはあっちこっちにあるけれど、まぁかまわない」というような意味で、「どうせ70歳まで生きられることは稀なんだから」と続くわけですよ。
杜甫も、飲めば死ぬ、飲まなくても死ぬ。どうせ死ぬならツケをしてでも飲まなきゃ損々という心持ちだったんでしょうかね。まあそもそも、その頃と今とでは平均寿命が違いますがね。