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「残ったのは2軒だけ。みんな亡くなった」青森駅前にポツンとある“ボロボロの歓楽街”…地元民に聞いてわかった「昭和の秘境」の“意外な歴史”

酒と色が混ざり合う「第三新興街」

2023/12/10

genre : ライフ, 社会

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 ピンクサロンが路地の入り口にあるのだが、ネオンが点いていない。4年前に訪れたときには確かにギラギラ灯っていたし、その夜、路地奥のスナックのママは、飲み屋だって「8軒やってるよー」と言っていた。今夜はそうも見えない。ここは、青森駅東口から南へ数分歩いた場所にある歓楽街「第三新興街」。一角の名を冠したアーチだけが赤々と灯っている。

灯るネオンが減り、退廃的風景が一層強まる

 まず、ほとんど眠っている木造長屋の姿、ご覧いただきたい。

2本の路地をはさんで立つ建物は3階建てと2階建てが混在しつつ、隣の建物と密着して奥へと続いていく
1階には、5坪もない小さな飲み屋が入り、一番奥には共同便所がある。昭和の飲み屋横丁の典型の姿を残している。残念ながらほとんど崩壊寸前にまで老朽化した棟もある

 いま、青森駅前は再開発が進み、2024年春には駅ビルのリニューアルが予定されている。広々したロータリーを中心にしてこぎれいな街並みが広がりつつある一方、この一角は都市整備から取り残されたまま。すでに歓楽の中心地は駅東側にある新町のほうへ移っている。灯るネオンが減ったことで一層強まった退廃的風景。建築時、十分な基礎工事も行われなかったのか、「建物が沈んできているのよ」と、あるママは言っていた。高度成長期ごろにはここが相当な賑わいだったとは、なかなか信じられない。

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雪の青森駅前
 

 しんしんと雪の降る夜に訪れたとき、溶けるほど甘いイカ刺しを出してくれた女将さんが言っていた。

「私、昔ここで、飯場のお母さんやったの。弁当作って持たせて。男らはここに寝泊まりさせてね。……でも私は、女商売はしなかった」

「女商売」による賑わいで大勢の男たちが路地を行き来

 街には土木建築の仕事が豊富で、宿泊施設からあふれるほど汗を流し働く男たちもいて、歓楽地は簡易宿泊所の役目も果たした。生のタラを煮た「じゃっぱ汁」を出してくれた別の店のママは、

「昔は、胴巻きに札束入れた漁師がね、土産に鮭をぶら下げて。……それで、店の女の子と一緒にどこかへね。まあ、私が来たときには(そういう商売は)やってなかったけど」

 
生のタラでじゃっぱ汁をこしらえながらママさんは話をしてくれた

 昭和期、第三新興街の賑わいは、酒を飲ませることにとどまらず、「女商売」――色を売ることによっても、もたらされていた。雪をふんで大勢の男たちが路地を行き来したのだった。

ある夜は、路地は雪にうもれていた

 4年を経て、ネオンは消え果てたようで……いや、別の1軒だけ、明かりがついている! というか、それをちょうど消そうとしている。もう? まだ19時を回ったところなのに。

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