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芸人のなかに“大谷翔平”はいない

 平井 芸人ってそもそも、学生時代にいつもクラスの中心にいるような優等生だったような人はいない。“大谷翔平”だった人はいないんです。この世界でお笑いに携わって33年経ちますが、昔から面白かった人はなかなかいません。かつて“普通の学生”だった人たちが鎬を削っているわけだから、人よりも一番ネタを見て、人よりも一番ネタを書いて、人よりも1番研究している芸人が成功するわけです。先日も「アメトーーク!」で「中学校の頃イケてない芸人」を放送していましたが、裏を返せば、そういう普通だった人間が、研究と努力と根性で結果を出してきたということです。

 だから、マネージャーが「これは伝わらない」とか、「これはもっとこうしたほうがいい」とか、さっき八木さんが言ってくれたように、やっぱり気づかせることが大切だと思ってるんですよ。その気づかせる舞台を色々と用意してあげることが、マネージャーの役目なのかなと。

 八木 「ここはこうしたほうがいいよ」と直接的に伝えるのではなくて、気づけそうな舞台を設けることで、自発的に気づかせるってことなんですね。

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 平井 そうですね、気づかせる。だから頭が固い芸人や、人の意見を聞かない芸人はちょっと厳しいかなぁと思いますよね。だから芸人には、マネージャーだけでなく「芸人仲間、スタッフ、色々な人の意見を聞きなさい」と伝えています。

 例えば、サザンオールスターズさんはデビュー以来45年近くヒット曲を生み出し続けていますよね。サザンオールスターズは桑田佳祐さんと原由子さんという二人を主体としてメンバー全員で楽曲制作をされていて、なおかつ桑田さんは必ず若い社員を担当に入れて、「最近の音楽では何を聞いてるんだ」と訊ねて研究されているそうです。 67歳になられた桑田さんでさえ、自分が正解だと思わずにいろんな人の意見を聞いているんだから、“普通の学生”だった芸人は、もっと人の意見を聞かないと。

 それから、芸人にはとにかく「ネタを作れ」と言っています。最高のネタ2本と、トーク力があれば芸能界では生きていけるからって。

SMAにお笑い部門を立ち上げた平井精一氏 ⓒ文藝春秋

——2021年に錦鯉がM-1で優勝したときも、決勝の数日前にバイきんぐの小峠英二さんやマツモトクラブさんたちが事務所に集結し、錦鯉のネタに磨きをかけたと聞きました。決勝で披露したネタのオチ「ライフ・イズ・ビューティフル」は、そのとき小峠さんから発案されたものだったとか。

 平井 そうなんです。2022年のキングオブコントで最終決戦まで残った「や団」もそうでした。や団は一番最後に決勝進出が決まったみたいなんですよ。10組中、10番目に決まった。ギリギリで決勝に行けたわけですから、決勝前にマツモトクラブ、だーりんずなど、SMAでネタを作れる芸人を全員集めてブラッシュアップしました。や団がネタを披露して「これがああだ、こうだ」とか言い合って。バイきんぐも個人的に見てあげたようですね。そうして結局、決勝では3位まで上がりました。

 八木 すごいですね。芸人たちは仲間でもあるけど個人事業主で、ライバルでもあるのに。

 平井 SMA芸人は他事務所に入れなくて苦労してきた人間の集まりなので、競うよりもみんなで力を合わせようという気概があります。

M-1グランプリ2021で優勝を果たした錦鯉 ⓒ文藝春秋

 八木 タイタンも芸人の数が多くない分、うちから「このコンビだけが決勝に残っている」となると、やっぱりみんなでウワーッて盛り上がります。自分が敗退していても、なんとか勝ち進んで欲しい。芸人仲は本当に良いので。

 平井 ウエストランドが優勝するまでは何かしましたか?

 八木 僕らは、「芸人の育て方」みたいなのが本当にないんですよ。ないこと自体がタイタンのマネジメント論なのかもしれない。だから、ウエストランドが優勝した理由は、分からない部分がすごく多いんですが……強いて言えば、ウエストランドは自分たちが「面白い」と思ったことをやり続けていて、僕らは事務所としてそれを応援し続けたということでしょうか。とにかく、本人たちが「やりたい」と思ってることを応援する。

 タイタンのマネジメントは、本人がやりたい道をサポートして、「あなたたちが進んでいる道は決して間違っていない、それが面白いんだよ」ってことを本人たちに感じてもらう。

M-1グランプリ2022で優勝したウエストランド ⓒ文藝春秋

 平井 何か劇的に変えたことは?

 八木 それもないんです(笑)。本当に変わらずで。ネタのテイストは、当然変わってきていましたが、こちらから何かを言ったわけではありません。本当に本人たちの力だなと思います。そこを支えてあげることが、うちのマネージャーとしての立場かなと思います。

「太田夫妻は東京のお父さんとお母さん」

 平井 タイタンさんは芸人の数が約30組と少数精鋭ですが、芸人同士のネタの磨き合いはありますか。

 八木 もちろん芸人同士でのダメ出しはしていると思いますが、さっきも話したみたいに、トップが太田光さんと社長なのが大きいです。自然と家族っぽくなるんですよ。ウエストランドが前に言ってたんですけども、「(太田夫妻は)東京のお父さんとお母さん」みたいだって(笑)。

 平井 ははは(笑)。

 八木 その後、太田さんに「気持ち悪いんだよ」って、むちゃくちゃ言われてましたけどね(笑)。そんな爆笑問題が、阿佐ヶ谷の事務所に普通にフラッとやって来るんです。若手がネタ作りをしている場に「おう」みたいな感じでやってきて、「おまえらのこないだのネタ、ああだったな」と話をしてくれる。少ない数だからこそまとまる芸人同士の団結と、トップである爆笑問題との距離の近さ。そういった「家族」っぽい雰囲気は、ネタ作りにおいてプラスに働いていると思います。

爆笑問題 ⓒ文藝春秋

 平井 爆笑問題さんと距離が近いなんて、色々学びがありますね。

 八木 「爆笑さんに言われたら頑張ろう」と、奮起するところはあると思います。ついこのあいだも、「バキバキ童貞です」という街頭インタビューで有名になった、ぐんぴぃのコンビ「春とヒコーキ」が雑誌の企画で爆笑さんと対談しました。

 爆笑さんの昔の話を聞くと、「自分たちと似たような境遇だったんだ」とか、「自分たちと同じようなこと考えていたんだ」という気づきがあるわけです。「爆笑さんも似た境遇だったなら、僕らもがんばろう」と。爆笑に憧れてタイタンに入ってくる芸人が多いので、刺激にもなるし、影響力は大きい。対談が終わったら、春とヒコーキは「僕たちもう、今日死んでもいいです」みたいなこと言ってました(笑)。

 平井 そうなりますよねえ。いいなぁ。