今年12月24日、「M-1グランプリ2023」は19回目を迎える。2021年大会ではソニー・ミュージックアーティスツ(以下SMA)所属の錦鯉が優勝、昨年はタイタン所属のウエストランドが優勝と、07年大会ぶり・2年連続で非吉本勢が頂点に立った。

 

SMAは2004年にスタートしたお笑いの世界では新しい事務所でありながら、M-1、R-1グランプリ、キングオブコントの“お笑い賞レース3冠”を達成し、タイタンは所属芸人が30組と少数精鋭だが、昨年のM-1ではエントリーした6組のうち2組が決勝に進出した。

 

老舗の大所帯の事務所でなくても、勝てるのはなぜなのか? その戦略を、SMAにお笑い部門を立ち上げ、現在も数多くの芸人をマネジメントしている平井精一さんと、タイタンのマネージャーであり、映画監督や放送作家としても活躍する八木順一朗さんに語り合っていただいた。

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東京のお笑い事務所は仲が良い

 八木 本日はよろしくお願いします。平井さんは、多くの歌手やミュージシャンを育ててきたSMAにお笑い部門を作られた方でもあり、これまでそうそうたる芸人を輩出なさってるので、今回の対談は恐れ多いというか(笑)。SMAさんは所属芸人も約150組と多いし、僕の中では「めちゃくちゃ強い大手」というイメージがあります。

 平井 八木さんとは今回が初めましてですが、東京の事務所って、どこも横のつながりがあって仲が良いですよね。

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 八木 とにかく他事務所のマネージャーとの交流が盛んです。

 平井 マネージャー同士で飲みに行ったりとかね。

 八木 はい、すぐ電話もします。「こういう企画の話は来ましたか?」とか、仕事の相談をしたり。それこそ他事務所の芸人が優勝したら「おめでとう!」っていうお祝いメッセージも送りますね。

SMAの平井精一氏(左)と、タイタンの八木順一朗氏 ⓒ文藝春秋

——SMAとタイタンはどちらもM-1優勝コンビを輩出していますが、まずはマネージャーの役割について聞かせてください。

 八木 タイタンは、マネージャーは本当に芸人に対して何も言わないんです。ネタに関しても。それはうちの爆笑問題と、太田光代社長の方針から来てるかもしれません。社長が取ってくる仕事に対して、爆笑問題はなにも文句を言わない。そして、爆笑問題が作るネタに関して、社長はなにも文句を言わない。そういう関係性が成り立っているんです。それが芸人やマネージャーに受け継がれてる気がします。

 平井 いい会社だなぁ(笑)。

 八木 本人たちが面白いと思ってやっている芸に対して、マネージャーがとやかく言うことはない、と考えているんです。芸人が自ら気づいて、自分で直していく、自分でもっと面白くしていく……というところに気づいてもらえるといいな、と。ただ、どこまで自分で気づかせて、どこまで言ったほうがいいのかが難しくて、常に悩み、考えながらマネジメントしています。平井さんは芸人に「これはこうしたほうがいいよ」といったアドバイス、結構言われるほうですか?

 平井 訊かれたらもう、正直に全部言います。でも、お笑いって、時代とともに絶えず変わりますよね。1990年代中盤は「ボキャブラ天国」、その後は「爆笑オンエアバトル」。そして「エンタの神様」を経て、ショートネタの「爆笑レッドカーペット」。そして今はM-1、R-1、キングオブコントの三大賞レースと、売れるためのメインの舞台が移り変わってきました。時代によって求められるお笑いは常に変わっているのに、一応チーフという立場の僕が「こうしろ」と安易に言っちゃうと、全部が「右に倣え」になって、事務所が専門店になって百貨店じゃなくなってしまう。マグロ漁船は、釣り好きだけが船に乗っているとうまくいかないそうです。お笑いも適材適所じゃないとダメだと僕は思っています。だから構成作家さんを通して話すことはあっても、自分からはあまり直接話はしたくないという気持ちがあります。でも、訊かれたら言いますね。

 八木 何でも言うというよりは、やはり訊かれたら、なんですね。