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 その一人、Bさん(18歳)が被害を受けたのは、Aさんの被害から3年後の2018年だった。中1の夏頃から中2にかけて、お尻を触られる被害にあった。本人の記憶では「10回よりは少ない。5回ほどだった」。脇の下をくすぐる「こちょこちょ」や、「猫みたいでかわいい」と言いながら首根っこをつかまれるといった身体接触は、2、3日に1度はあった。「胸が小さいね」と性的な暴言を吐かれ、一度は浴室をのぞかれ裸を見られた。

大人の職員たちも目撃していた

 X氏の性虐待はほかにもあったのではないか。そう思わせる目撃証言が大人たちからも集まった。

 元職員Cさん(希望により年齢は伏せる/女性)は在職中、X氏の部下だった。X氏が勤務するユニット(施設内の生活単位)には小学生から高校生まで6人が生活していたが、そのうち2人の小学生に対し、X氏の身体的距離が近いことに違和感を持った。

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「X先生は女の子を膝に乗せていました。小学校低学年の子と中学年の子です。プレイルームで夕食後や休日にテレビを観ながら過ごす時間があるのですが、そのときに必ずと言っていいほど膝に座らせたり、膝枕をして股間の上に女の子の頭が乗るような体勢をとったりしていました。太もものあたりを、指を這わせるように撫で回していました」

 プレイルームとはユニット内に設けられた共用スペースで、一般家庭のリビングのような空間のことだ。

 元職員Dさん(20代女性)も、X氏がある女児を膝に乗せて撫で回す場面に何度も遭遇した。そのたびにその女児に向けて「もう幼児さんじゃないからおかしいよ」と膝から降りるよう促したが、子どもに被害実感がなく、離れたがらないこともあった。その女児についてDさんはこう述べた。

「その子のおかあさんは男性を家に連れてきて子どものベッドの隣りで性行為をしていたそうです。小さいときに親の性行為を見せられる虐待を受けた子どもは異性との距離感の認知が歪んでしまう傾向があります。それを正し、適切な距離の取り方を教えるのが施設職員の役割なのに、X氏は、親元から離れて生活する女の子の寂しさにつけ込んでいるように感じました」

 こうした行為は「撫で回し」と呼ばれる。

「撫で回しは明らかな性暴力です」と話すのは静岡大学の白井千晶教授だ。白井氏は家族社会学が専門で社会的養護の現場にも詳しい。  

静岡大学の白井千晶教授 撮影=中尾あづさ

「幼少期に親からの虐待などで愛着形成に課題を負うことになった子どもは、自己肯定感を高める機会を奪われて、こうした撫で回しに対して本当はいやだと思っているのに、防衛本能や恐怖からいやだと言えないことがあります。また、幼くていやなことをされていると認識できず、大人になって気づくことがあります。そのときの自身への処罰感情が深く自分を傷つけてしまうことが懸念されます」

 白井氏によれば、子どもへの性虐待の8割は家族を含む身近な人が加害者だという。子どもの頃に受けた性被害はPTSDや解離症状、性的逸脱行動など、成人後も長く苦しみ、人生に負の影響を深く残す。

 元職員のCさんとDさんはX氏の日常的な性的嫌がらせについてさらに証言した。箇条書きにすると、以下の通りだ。

✓女児が入浴時に自分のショーツを手洗いした後、陰部があたる部分をX氏が確認する

✓浴室を覗き見する

✓気に入っている特定の中高生の下着を含む衣類をX氏が洗濯する

✓男性職員は入室を控えるべき洗濯室(女子の洗濯物を干す場所)に、X氏が出入りする

✓女子の着替え中にX氏が入室する

✓低学年女児に添い寝する

✓ショートパンツ着用女児の足首を持って逆さ吊りにする(足の付け根から下着が見える)

✓中高生少女をくすぐる

 これらの行為が日常的に行われていたとCさんとDさんは話した。