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2018/03/28

そこに「ショート倉本」の姿はなかった

ベイスターズのキャンプ地・宜野湾 ©西澤千央

 ベイスターズがキャンプを張る宜野湾市立野球場は、お祭りのような賑わいだった。オフィシャルショップに屋台も並び、家族連れや、カップル、私のようにひとりで来てる女性もたくさんいた。「あ、ラミレスがノックしてる」「大和!!」子どもの声につられて急いで練習場に向かうと、ショートの位置でノックをうける大和選手がそこにいた。

「速い……」

 思わず声に出た。ボールを捕ってからの速さが、桁違いだった。ボールの方向にすべるようにやってきて、ふんわり、柔らかく、でもしっかり捕球して、そこからものすごいスピードで送球する。まるでフィギュアスケートの演技を観ているようだった。美しいステップ、高速かつ軸のブレないスピン……ステファン・ランビエールだ。ステファン・ヤマトだ。「ステップシークエンス」「加点がもらえます」頭の中で八木沼純子が叫んでいた。

宜野湾市立野球場 ©西澤千央

当たり前だと思っていたことが……

 倉本は……セカンドのポジションにいた。慣れない守備位置に戸惑っているようにも見えた。少し動きが固いような、慎重にボールを捌いている。いつもと変わらない、クールな表情だったことに少し救われた。すごい選手が、すごいライバルがやってきたんだ……。私は小さくため息をついた。でも2人が、細かく連携を確認したり、時々笑い合ったりしているのを見て、少し熱いものもこみ上げてくる。ショート倉本の座を脅かすライバル、だけど二遊間を組む仲間でもあるのだ。私は頭を抱えた。

 当たり前だと思っていたショート倉本が、当たり前ではないことを、私はそのとき初めて知った。そして、ステファン・ヤマトのフリースケーティングに、ときめいたのも事実だった。一緒にストレッチする倉本と大和に、なぜかドキドキもした。混乱していた私は、心を落ち着かせようと球場近くの小さな食堂に入る。壁に飾られているたくさんのサインを黙って見つめた。注文したフーチバーすばは、今の私の気持ちのようにほろ苦かった。

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