帰宅すると、「チュッチュ」と音が…
俺は、佐賀から家出同然で、嫁さんと飛び出してきたでしょ。当時はまだ結婚はしていなかったけど、4畳半一間、共同トイレのアパートで同棲していたんです。俺の家に来た寛平と「腹減ったな」と冷蔵庫を開けても、何も入っていない。嫁さんが帰ってくれば、なんかできるだろうと思って、仕事から帰ってくる嫁さんを駅まで俺1人で迎えに行ったんです。当時、嫁さんは経理の仕事で会社勤めをしていましたからね。
嫁さんと帰宅すると、「チュッチュ」と音がする。ドアを開けたら、寛平が冷蔵庫からマヨネーズを出して舐めていたんですよ。当時は、本当にお金がなかったから、冷蔵庫にはマヨネーズとケチャップくらいしか入ってなかった。それを見た嫁さんが、ご飯だけ炊いて、ササッと焼き飯を作ってくれましたね。腹が減っていたから、あの時の焼き飯は美味かったな。それから3ヵ月もすると、寛平は3日に1度は泊まるようになってましたね。自宅に戻っても親に怒られるのが嫌だったんでしょうね。4畳半に3人でよく寝てましたよ。
「電気代を払い忘れていたんですよ」
いつものように寛平が俺んちにいると、急に電気が落ちてつかなくなったんです。
「電気代払うのが遅れたから、止められたかも」と嫁さん。そうしたら寛平が、
「俺は電気工事のバイトしたことあるから、電柱から電気をつなごう」
「アホなこと言うな。そんなもん感電したらどうすんねん。しかも怒られるやろ」
「いや、大丈夫や」
「大丈夫やないねん」
そう言っても聞かなくて、近所の金物屋で電線を買ってきたんです。
ちょうど家の前の電線が低いところを通っていたから、俺が寛平を肩車して電線につなごうとしたら、「あんたら何してんの? そんなことしたら感電して死ぬで」と家の裏にいた大家さんにピシャリと怒られてね。
「電気代を払い忘れていたんですよ」
「じゃあ、今から払いに来い」
支払うとすぐにつきましたね。
つい最近ニュース番組で見たけど、開発途上国では電気を勝手に盗むとかあるらしいですね。昭和の日本でも俺らはやろうとしてましたよ。