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DeNA倉本寿彦に会いに沖縄へ 人妻キャンプだより2018〜嘉手納編〜

文春野球コラム オープン戦2018

2018/03/28
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嘉手納の気持ちよい風に吹かれながら

なんだか懐かしい嘉手納野球場 ©西澤千央

 コンクリートの客席に、ポツポツと人が座っている。若手選手のファンらしい女の子たちが、念入りにお化粧を直している。カメラを構えて選手を追いかける人、中学生くらいの男の子たち、選手ひとりひとりに指示を飛ばす謎のおじさんもいる。個性的な面々が嘉手納の景色に溶け込んでいた。吹き抜ける風が気持ちよくて、心のざわざわも忘れ、いつしか私もその景色に溶けていた。

 倉本と同じ、横浜高校出身の石川はすぐに分かった。背番号7はスラッとして遠くからでも華があるから。石川とキャッチボールしていたのは、同じく横浜高校出身の荒波だった。2人の横で、これまた横浜高校出身の小池コーチが何やら檄を飛ばしていた。背番号が3桁の、まだあどけなさの残る若い選手に交じって、ゴメスが、田中浩康が、誰よりも声を出して守備練習している。客席のおじさんが満足気にうなずく。そんな光景を見ながら、私はぼんやり考えていた。

横浜高校出身の荒波と石川 ©西澤千央

明日を夢見て練習するなんて……

 自分で引き際を決められるのは、選手の中でもほんの一握りだ。多くの選手は、活躍できなければクビを言い渡され、それに従うしかない。昨日宜野湾で見たお祭りのような歓待の中で練習したり、プレーしたりする選手もいれば、人もまばらな球場で明日を夢見て練習に励む選手もいる。一度も歓待の中でプレーすることなく、去っていく選手もたくさんいるのだ。

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「よっしゃもういっちょ!!」

 人一倍大声の関西弁は飛雄馬だろうか。私だったらとてもじゃないけどできないな。筒香やロペスや宮﨑や梶谷があれだけ活躍している中で、明日を夢見て練習するなんて、私にはできないよ。だけど嘉手納には、そんな諦めや悲壮感は微塵もなく、この吹き抜く風のようにさわやかに、投げて打って走る、野球が好きでたまらない人たちしかいなかった。一軍に上がり、レギュラーとして活躍することが、どんなに大変なことか。私はあらためて、それを思った。倉本が今宜野湾で、大和や柴田と壮絶な定位置争いをしていることが、どんなにすごいことなのか。明日をも知れぬこのスポーツに人生を賭ける人たちを思い、そんなスポーツに出会ってしまった自分を思った。私には夢がなかった。夢なんてなくても生きていけると思っていた。でも今、この気持は夢っていうのかもしれないな。

 嘉手納の町に昼を告げる『エーデルワイス』が流れた。午前の練習を終えて、去っていく選手たち。「エーデルワイス、エーデルワイス」自然と口ずさんでいた。高貴な白という意味のエーデルワイス。純粋のシンボルでもあるエーデルワイス。万年雪の岩場の裂け目に咲く、美しくたくましい花。純粋に野球を愛するその白い背中に、Bloom and grow foreverと言いたかった。さあ、帰ろう、私も。海ぶどう買って。

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