「なぁ、啓介。お前、今日しゃべって楽になっただろう? お前が元気でいることが一番大事なんだからな」――その言葉に、僕は大きく頷いていた。

 妻である大山のぶ代(90)さんの認知症をラジオで告白した、俳優の砂川啓介さん(2017年逝去)。最初は批判がくる恐れもありましたが、告白後に感じたのは多くの人の優しさでした。当時のエピソードを、砂川さんの著書『娘になった妻、のぶ代へ』(双葉社)より一部抜粋してお届けします。(全2回の2回目/前編を読む)

認知症をラジオで告白したことで、砂川さん、大山さんの人生はどう変わったのか? ©双葉社

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ラジオでの告白

 2015年5月13日の生放送当日、僕はやはり少々緊張していた。

 きっと、「早く公表してホッとしたい」という気持ちと、「世間が、どう受け取るのだろうか?」という不安が入り混じっていたからだろう。

 そんな僕の心境を察したのか、パーソナリティーを務める大沢悠里さんは、上手に話を引き出してくれた。おかげで、僕のカミさんへの思いや、認知症をなぜ公表したのか、その意図するところが、きちんとリスナーに伝わったのではないかと思う。

 放送中もスタジオに続々と届くリスナーからのファクス。「すごい反響ですよ!」というプロデューサーの声に、僕自身も驚いていた。

 正直なところ、これほどの反響があるとは想定していなかったのだ。

 何より嬉しかったのは、同じように認知症患者の介護を経験したり、今も介護にあたっている人からのメッセージだ。

「砂川さんが公表してくれたことで、私も勇気が出ました」

「なかなか人に言えないことだけに、公表してくれて心強いです」

「涙が出ました……。介護倒れしないように、砂川さんも気をつけてくださいね」

 僕と同じように、手探りの状態で“老老介護”を続けている人が、世の中にはたくさんいる――。

 身をもってそう感じ、かえって僕のほうこそ、認知症の患者を抱える全国のご家族の方々から、たくさん勇気をもらったと思っている。

 非難されることも覚悟はしていたが、その後も僕のところには、バッシングや批判的な意見は一つも届いていない。

 番組には、マムシも駆けつけてくれた。

「なぁ、啓介。お前、今日しゃべって楽になっただろう? お前が元気でいることが一番大事なんだからな」

 その言葉に、僕は大きく頷いていた。

 放送後の反響は凄まじく、ありとあらゆる新聞社、雑誌社からの取材が殺到。対応しきれなくなったので、会見を開かざるを得ない事態になったほどだ。

大親友・黒柳徹子のファックス

 もちろん、芸能界の知人たちからも続々と連絡をいただいている。

 のび太役を演じていた小原乃梨子さんからは、手紙と、僕が大好きな焼酎「百年の孤独」を送っていただいた。手紙には、カミさんの体調を気遣うとともに、僕に対する温かな激励の言葉が綴られていた。実は、小原さん自身も身内の介護経験があるのだという。だから、カミさんの介護に取り組んでいる僕を、自分のことのように案じてくれたのだろう。

 カミさんにとって50年来の大親友で、互いを「チャック」「ペコ」と呼び合う黒柳徹子さんからもメッセージをいただいた。

大親友の黒柳徹子さん ©文藝春秋

 それまで黒柳さんとカミさんはよく、家にあるファクスで連絡を取り合っていたのだが、公表後、黒柳さんからは珍しく僕宛にファクスが送られてきたのだ。