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「見渡すと、壁中に穴がありました。何ヵ所も、何ヵ所も」殺人現場のお祓いに向かった宮司が感じた“すさまじい執念”

『はぐれ宮司の 事故物件 お祓い事件簿 1500件超の現場を浄化!』#2

2024/01/17

genre : ライフ, 社会

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血まみれの部屋

 現場は繁華街にほど近い、住宅街にあるマンションの三階でした。

 自殺や孤独死の現場には慣れているわたしですが、殺人現場に赴くことはそう多くはありません。現場に入るときは、どうしても少し構えてしまうものです。

 玄関のドアをあけると、2LDKの部屋の床一面に、透明なビニールシートが敷いてありました。

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 現場の検証もまだ途中ではないかと思われるような物々しい雰囲気で、遺体だけが運び出されており、事件後のままの状態でした。

 部屋中に漂っている独特な臭いは、普段の事故物件のお祓いで嗅いでいる死臭ではありません。生臭い、胸がむかつくような、リアルな血の臭いでした。孤独死の現場などでは嗅ぐことのない臭いです。

 透明なビニールシートの下は、真っ赤に染まっていました。

 血で濡れた床を直接踏まないように、ビニールシートが敷いてあるのです。

「気をつけてください。滑りますから」

 クチャッ、クチャッ、クチャッ……

 大家さん、不動産屋さんとともに玄関から事件現場に向かって歩を進めるたびに、液体を踏む音が響きます。

 足の下のぶにゅぶにゅとした慣れない感触に気味悪さを感じながら部屋を見渡すと、壁のあちこちに血しぶきの跡がついていました。

写真はイメージ ©️AFLO

 被害者は、包丁で何度も刺されながらも逃げ回り、全身を刺されて亡くなったそうです。

 壁に飛び散った血しぶきからは、事件時の凄惨な様子が伝わってきました。