別格の野球映画から、紹介を始めたい。「ドジャースの新人」野茂英雄が旋風を巻き起こす少し前、米国PBSテレビで18時間に及ぶドキュメンタリー映画が放映された。
厖大な映像で綴る別格ドキュメンタリー
題名はずばり『ベースボール』(94)。監督はケン・バーンズ。いまは日本のアマゾンでも輸入盤DVDが買える(Baseball:A Film by Ken Burns)。
総計時間からも察しがつくとおり、1回の放映分は2時間。現実の野球と同様、各回が表裏に分けられ、150年間の野球史が、ゆるやかな年代記の形を借りて語られる。
素材は、厖大な資料映像が基本だ。タイ・カッブやベーブ・ルースのみならず、ニグロ・リーグの英雄だったジョシュ・ギブソンやサッチェル・ペイジの姿も見ることができる。加えて、多くの野球好き(野球人だけでなく、歴史家、生物学者、映画監督なども)に証言や回顧を求めたインタヴュー映像とスティル写真。
それらを溶かした卓抜な編集術から立ちのぼるのは、動く野球百科の楽しさと、アメリカのハートにじっくりと肉薄する叙事詩の繊細さだ。
この呼吸が素晴らしい。野球が過去と交信できるスポーツであるという基本的な認識が、映画の底で息づく。私にとって『ベースボール』は、野球映画を測定する上でのメートル原器となっている。
美しいフィールド、つきまとうホラ話
野球の魅力は、過去との交信だけにとどまらない。フィールドの構図は美しくデザインされているし、ホラ話と相性がよいことも見逃せない。
それらの要件を満たしてくれるのが、リストに掲げた映画の数々だ。