文春オンライン
文春野球コラム

「あえて超ネガティブな歌詞を入れた」オリックス・バファローズの「世界で一番悲しいチャンステーマ」はなぜ生まれたのか

ガガガSP・コザック前田×大阪紅牛會・和田益典 #2 文春野球コラム ウィンターリーグ2023

note

 12球団の応援歌のなかでも、オリックス・バファローズの応援ほどカッコよく、歌うのが難しい曲は他に類を見ないという。一見客にもわかりやすく、歌いやすい応援歌が増えている昨今のなか、バファローズの応援歌はどんな意図があるのか。神戸で結成されたガガガSPのボーカルにして、幼少期から応援歌を心底愛し、オリックス・バファローズをはじめ、各球団にも楽曲が使用されているコザック前田氏をホストに、彼と親交の深いオリックス・バファローズの応援歌のほとんどの作曲を手掛ける「大阪紅牛會」の初代会長にして、現応援統括プロデューサー和田益典氏による特別「応援」対談の後半――。

「世界で一番悲しいチャンテですよ」

和田 プロ野球12球団、それぞれに応援の特徴があると思うけど、「バファローズの応援歌いうのは何や?」いわれたら、やっぱりカッコいい。だけど歌いにくい(笑)、と、よく耳にします。 曲にしても詞にしても、ものすごい好き嫌いは分かれるんやと思うけどね。

コザック 球場で1度聴いて「はい。ほな歌いましょう」という歌ではないですからね。だからマイノリティになってしまう部分はどうしてもありますよね。

ADVERTISEMENT

和田 元々がガラガラの藤井寺球場からやし(笑)。俺が小学生の頃、自転車で5分程でいけた球場は応援よりもヤジが飛び交うばっかりで。鳴り物も禁止やったからヤジが余計に聞こえてね。一方、テレビをつければGとかTとか人気チームの中継やってて、立派な応援歌と大歓声が普通に聞こえてくる。この差はなんやねん!と。広い日本に12個しかない球団の本拠地がウチの近所にあるねんぞ。もっと地元民が球場来てくれや。応援してくれやと、小学生当時の俺は、本気で憤っていたんですよ。

コザック これは僕らのバンドの立場もそうなんやけど、もともとの数がすごい阪神や巨人みたいな人気球団より、アンダーグラウンドの部分で“知る人ぞ知る”、せやけど知ってる人たちは、“ディープに知っている”という部分が非常に強い。歌詞にしたって簡単には覚えられないかもしれへん。だからその分、“カッコいい”を突き詰めていきはっているんやろうね。

和田 俺の自然な感覚として、好きなミュージシャンがいて、歌があれば、どんなに難しくとも、歌いたくなるんよ。日常の中でも、車の中でも口ずさみたくて、カラオケに行けば歌いたくなる。好きやったら覚えなおもしろくない、いうのが根本にあるんよね。バファローズの応援はちょっと難しいかもしれんけど、そのぶん覚える愉しさがあると思ってもらえたら。

 

コザック ぼく、聞きたかったことがあって。応援団って、お金をもらってやる職業とは違うやないですか。それなのに、和田さんはなんでそこまで、ひとつの曲を作るのにストイックにやられることができるのやろか。

和田 そら根本にあるのは、チーム愛ですよ。高校生の頃から曲を作ってるけどその当時から「よそのチームに負けへんような応援歌を作りたい」って思いがずーっとあって、特に俺らはお客の数、声の量じゃ勝てへんかったからね。だから質では絶対に勝たないかんという思いがあった。

コザック それで“カッコいい”を徹底的に突き詰めていった。

和田 何曲か作って、評価されたら、「もっとええのを作ったろう、次はもっとええのを」とどんどん自分にプレッシャーかけて追い込んで、その連続で今まできてるというのはあるよね。

コザック 和田さんは、更新していくのがすごいなと思うんですよね。バンドでもそうなんですけど、10年、20年前につくって人気になった曲というのがあったとしたら、それが重宝されていくというのはある程度仕方のないことなんですけど、思いとしては、やっぱり新曲が一番歌われるような状態に持って行きたいというのがまずあるじゃないですか。

和田 うん。そうやね。

コザック 昔の自分を常に更新していく。それはもう音楽家なんですよね。毎年、新曲をリリースしているような感じでね。

和田 前ちゃんにそう言ってもらえるなんてめちゃくちゃうれしいわ。更新というのかわからんけど、俺は近鉄でどこにも負けない応援をつくりたくて、その応援で球場を真っ赤に染める景色が観たかった。

 2004年に互いに愛するチームが無くなり、ついこの前まで対戦してたチームと一緒になって、選手もバラバラになって……。なんやねんこれ。なんで俺らだけ消滅するんやって思いがずっとあって、一緒にやっていた応援団のやつらも多くが辞めていってね……それはBuもBWも同じで。いざやるとなっても応援歌はなかなか作れなかった。

2004年近鉄最後の試合となるウエスタンリーグ優勝決定戦終了後

コザック うんうん。

和田 旧ブルーウェーブの応援団とも話してね、やるとなれば新しいチャンステーマとかも要るやろし「がんばって作るわ」言ったもののなかなか出来なくて。そしてギリギリで『丑男-Cowboy-』ができた。あえて超ネガティブな歌詞を入れた。今やったらありえへんやろね。その時の思い。企業の都合でこんなになってしもうたけど、この合併は俺らが望んだものではないし、俺らが負けたわけでもない。合併球団になった最初、みんなに言うたんですよ。「服も旗も、基本的にはこれまでのまま行こうぜ」って。近鉄の旗そのまま振って、だいぶ批判もされました。それでもね、そこから少しでも前に進まないとあかんと。

 そういう必死の決意がダイレクトに入っている。世界で一番悲しいチャンテですよ。でもそれは当時の俺らにしか作られへんかった。


コザック 僕はブルーウェーブ時代から見ていたけど、本格的に球場に通い出したのが合併した2005年から。あの時はヘンな空気がありましたよね。「お前はブルーウェーブとバファローズ、どっちやねん?」みたいなこともたくさん聞かれましたし、楽天と試合しても何がどうなってるんだかというね。

和田 ただ今はね、合併から時間が経って、現役の選手も当時のことを知る人がいなくなった。近鉄でもブルーウェーブでもない、新しくファンになった人たちにも『丑男』は普通に燃えるチャンステーマなんやけど、「なんで強くて、楽しいチームなのに、“悲しみ”なん」と疑問に思う。意味を無理強いするなんてダサいことはせえへん。だけど、このチームはそういう歴史を乗り越えてきた事実がある、それを知ってもらうきっかけとして、やっぱり試合の一番大事な局面であの曲を流すんよ。

コザック うん。この応援歌も、ファンの心情も、時間と共にいろんなものが更新されてきました。

文春野球学校開講!

関連記事