2023年7月18日、28歳の若さでこの世を去った元阪神タイガースの横田慎太郎選手。2017年に脳腫瘍が判明し、再発・転移と入院を繰り返していた横田選手の闘病生活を支えたのは、母・横田まなみさんをはじめとする家族だった。

 ここでは、母・まなみさんの視点で横田選手の生き様を描いたノンフィクション『栄光のバックホーム 横田慎太郎、永遠の背番号24』(幻冬舎、著=中井由梨子)より一部を抜粋して紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)

元阪神・横田慎太郎選手 ©文藝春秋

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「脳腫瘍だって」息子から突然の電話

 あの日を、忘れません。

 2017年2月。1本の電話が私たちの長い長い旅路を告げる汽笛のように鳴り響きました。

 慎太郎は前年のシーズンを不完全燃焼に終えたものの、年が明けてすぐに一軍の沖縄での宜野座(ぎのざ)キャンプに呼ばれていました。今年こそは、とやる気を奮い立たせていたそうです。

 私は仕事が休みで朝からのんびりと家におりました。夕方から買い物にでも出かけようか、と思っていた時のことです。スマホに着信がありました。画面に慎太郎、の文字。

 あまり良くない知らせのような予感がしました。そのような予感がした時は、とっさに元気に振る舞ってしまうのが私の癖です。

「あら、慎太郎! どうしたの、元気?」

『あ、うん、元気』

 電話口の慎太郎が言葉に戸惑った感じがしました。

『今日さ、病院行った』

「あ、そう。怪我?」

『ううん』

「なに」

『脳腫瘍だって』

息子はいったいどうなってしまったのだろう

 一瞬、何を言ったのか分かりませんでした。

「え、なに?」

『の……』

 それっきり、慎太郎の言葉が途切れました。心臓がドン、ドン、と内側から叩くように鳴り始めました。いったいなんなのだ、のう、しゅよう?

『もしもし、お母さんですか?』

 耳慣れない男性の声が聞こえました。球団のトレーナーの方でした。

『すみません、本当に突然なのですが、大阪までいらしていただくことはできますか』

 頭の中ではグルグルとさっきの慎太郎の言葉が渦巻いて、電話の向こうの声がよく耳に入りません。息子はいったいどうなってしまったのだろう。