1ページ目から読む
4/4ページ目

「肩の力を抜く」とは、腕をだらんと下げることではない

近年、リラックスが大事との風潮から「肩の力を抜きなさい」と言うスポーツや楽器の指導者が増えています。もちろん、その指摘自体は間違っていません。

しかし、たいていの人は「腕をだらんとする」と解釈してしまいます。人体の構造として、腕は肩甲骨(けんこうこつ)と鎖骨によって、胸郭(きょうかく)に覆いかぶさっています。成人で3〜4キロもある腕が、両側でたれ下がっていたらどうなるか?

胸郭を押しつぶしてしまうのです。すると2つの困ったことが起こります。ひとつは呼吸の動きが制限され、呼吸が浅くなること。もうひとつは、背骨が上から抑え込まれるので、地面からのショックを吸収する柔軟性がなくなり、伸び上がるようにスッと立つのが困難になることです。もしくは、腕の重みに打ち勝とうとして胸を突き上げたり、背中の筋肉をかたくしてしまったりします。

ADVERTISEMENT

では腕をだらんとさせずに脱力するには、どうすればいいのでしょうか? 肩甲骨から羽が生えているかのように、腕をふわっとさせる……そんなイメージを持ってみてください。腕の重みは背骨や体幹に均等に分散し、背中の筋肉がゆるんで解放されていくはずです。呼吸も背骨も、押しつぶされなくなります。

Dさんはこうしたことを聞いてキョトンとしていましたが、頭でその言葉をなぞってみたのでしょう。姿勢がスーッと立ち上がり、胸と肩が呼吸で躍動してきたのです。その体の軽さに驚いているようでした。しだいに吐き気や頭痛もなくなって、マッサージはすっかり必要なくなってしまったそうです。

あなたの体は、一生付き合わなければいけないものです。ケアを人任せにせず、自分でケアできたらいいと思いませんか? その第一歩こそ、体のイメージを変えていくことなのです。

大橋 しん(おおはし・しん)
理学療法士
岐阜県生まれ、神戸在住。フローエシックス代表取締役。ドイツでチェロの修業中にアレクサンダー・テクニークを知り、帰国後に理学療法士とアレクサンダー国際認定教師の資格を取得。救急病院勤務を経て、整形外科クリニックにて「特命理学療法士」として勤務。2020年に独立し、リハビリと太極拳を中心としたスタジオを開設。姿勢改善の研究成果を積極的に学会で発表しており、医療だけに頼らない健康とケアのあり方を提案している。テレビ・ラジオ出演多数。