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実際に起きた出来事のみ描く

──描くにあたって苦労した点はありますか?

ドリヤス 「三億円」や「下山」など、後年になってさまざまな人が本をだされている事件は、まとめるのが大変でした。特定の意見を引き写すのではなく、当時の新聞や雑誌にあたって、実際に起きた出来事のみを描くことを心がけました。

三億円事件

 キャラクターのコメントは入れますが、事件の解釈は読者にまかせる。その点、難しかったのは「帝銀」や「名張毒ぶどう酒」といった冤罪の可能性がある事件ですね。読者を印象操作するのは避けなければいけませんから。

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──逆に、描いていて楽しかった事件はありますか?

ドリヤス 「口裂け女」は面白かったですね。噂の発生源が岐阜県で、そこから全国に波及していった経緯や、口裂け女に扮して逮捕された女性がいた事など、面白エピソードを拾うのが楽しかった。あとは「エリマキトカゲ」。ブームがどこから来て、どうなったのか、追っていくのが興味深かった。テレビの動物番組で紹介されたのが発端で、CMで取り上げられて大ブームとなり、あっという間に消えてしまった。意外ですが、この経緯をまとめた本はないんですね。

 

──実際、ドリヤスさんはどの辺の事件から記憶がありますか?

ドリヤス 「口裂け女」はうっすら聞いたことがあったくらいで、覚えていないですね。実際に記憶にあるのは、「グリコ・森永」くらいからでしょうか。「ロッキード」にしても、裁判が続いていましたから知ってはいましたが、今回、初めて事件の全容が分かりました。これも構成に苦労しましたね。たんなる汚職事件ではつまらないので、「ハチの一刺」証言やハマコーのラスベガス5億円賭博なんかの面白エピソードを随所に入れました。

──資料を読んで、予想と違っていた事件はありましたか?

ドリヤス 「大森銀行ギャング事件」。これも今回、初めて詳細を知りました。戦前の共産党が資金集めに銀行強盗をするのですが、指示役のリーダーが実は特高のスパイだったという。まるでスパイ小説みたいな話で、二重三重の逆転があります。

──女優・岡田嘉子が愛人と一緒に、樺太からソ連へ逃亡した事件も取り上げました。

ドリヤス 時代背景を調べてみると、たんなる色恋沙汰ではないんですね。岡田はスパイとして監禁され、愛人の杉本良吉は処刑されていた。当時の日本やソ連をめぐる国際情勢が見えてきます。