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『バットマン』シリーズ、そして今作に通じる“主人公の葛藤”

「私は人間的というか、欠点がある人々に魅力を感じるんです。私がバットマン(2005年の『バットマン ビギンズ』に始まる三部作)を撮ったのも、他のスーパーヒーローと違って彼は生身の人間であり、葛藤を抱えている人物だから。でも私が取り上げる人物はそれぞれ違う顔を持っています。私がオッペンハイマーに惹かれたのは彼が公の場で語ったことと、その根底にある行動とが必ずしも一致していないことです。原爆投下に対して、感情とは別に、彼は決して謝罪しなかった。言い訳もしなかった。彼は科学的成功において、自分の役割を自認していました。しかし、1945年以降のオッペンハイマーの行動はすべて、多くの罪悪感と、自分の発明と世界を変えた方法がどこに向かっていて、それがどれほど暗いものかに強い自覚を持った人物のものなのです。 それは、映画的にとても強度のある主人公だと思ったんです」

 映画の中では、広島、長崎の原爆投下の場面はないものの、彼が幻影を見るという形でその罪悪感が描かれている。英国人であるノーランは、天才ゆえの驕りがあったオッペンハイマーが原爆の実際の威力に慄き、水爆には反対の立場をとったことから、米国の政治に巻き込まれていく姿を冷静に映し出す。敵対するのは原子力委員会委員長ルイス・ストロースで、ロバート・ダウニー・Jr. がいわばモーツァルトに嫉妬するサリエリとして演じている。

 また科学的知識においては、ノーベル物理学賞受賞者であるキップ・ソーンの影響も大きかったという。ノーランの「インターステラー」(2014)に製作総指揮として関わったソーンは、学生時代にオッペンハイマーの講義を受けたことがあった。

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「私は物理学には全くの素人ですが、キップ・ソーンと知り合ったことで、量子物理学に大きな興味が湧き、それがこのプロジェクトに繋がったんです。アインシュタインの相対性理論に続く、オッペンハイマーと彼の同時代人が取り組んでいた科学的思考の変化は、人間のあらゆる種類の思考における最も重要なパラダイムシフトですから。映画の観客には、その考え方の変化がどれほど急進的で、どれほど強力だったかについて、感じてほしいと思っています」