高度成長期を舞台に、砧青磁の経管の壺がたどる数奇な運命を描いた、有吉佐和子さん(1931-1984)の小説『青い壺』。
定年後の夫との折り合いや、遺産争い、女学校の同窓会旅行そしてスペイン出身の修道女といった、そのときどきの持ち主のエピソードから、人間のさまざまな心の綾を映し出す13編の連作短編集だ。2011年に復刊されると、口コミで面白さが広がり、この半年だけで12万部、累計45万部を突破するベストセラーとなっている。
“再ブーム”の大きなきっかけとなったのが、『三千円の使いかた』や『財布は踊る』のベストセラー作家・原田ひ香さんの推薦帯<こんな小説を書くのが私の夢です>だった。原田さんが感じた『青い壺』の普遍的な魅力とはいったい何だったのか。改めて、原田さんに綴っていただいた。
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まずはこの物語、『青い壺』との出会いから話さなければならないだろうか。確か、10代の頃、有吉佐和子氏の『悪女について』を読み、こんなにおもしろい小説があるのかと驚いた。そして、同じようなものはないかな、と図書館で有吉氏の作品が並んでいる棚を順番に読んでいって見つけたのが本書だ。探した中には『華岡青洲の妻』や『恍惚の人』、『和宮様御留』などももちろん含まれ、スピード感がある大胆なストーリーの数々に私は引き込まれた。
『悪女について』はご存じの通り、ある亡くなった悪女について、さまざまな人が彼女の生前の姿を語るという形の小説だ。子供時代のところだけでも、彼女がさまざまな人にまったく違う顔を見せていたことがわかり、読者を幸せな迷宮にさまよわせる。同じような小説を……というなかでこの『青い壺』はどんぴしゃだった。女と壺、有機物と無機物の違いはあるが、在る場所、持つ人によってその価値や意味を変化させ、一つのものを中心にさまざまな人が登場するところは、姉妹小説と言っていいだろう。
10代の頃は、話の裏に隠された不義の匂いにわくわくしたり、痴呆の症状を見せる老人にげんなりしたが、50を過ぎた今、読み返して気がついたのは、ここに出てくる老人たちは全員、あの戦争を辛くも生き残った人たちだ、ということだった。