1ページ目から読む
3/4ページ目

(なお「九二共識」とは、1992年に中台双方の窓口機関交流において口頭で合意が成立したとされる、大陸側と台湾側で「ひとつの中国」という認識は共有しつつも「中国」をどう解釈するかは双方に任されると国民党側が理解している合意──、のことである。大変ややこしい説明だが、こう書くより仕方ない)。

民進党の会場も平均年齢高し

 国民党の集会を離れ、すこし離れた泰豊輪胎中壢廠の広場で開催されていた民進党の集会に向かう。 現場に到着すると、広場の規模は国民党の集会場所よりもふたまわりほど大きく、内部は完全に満員だった。後日の主催者発表は10万人、目測でも実数で4万~5万人は集まっている。民進党のカラーである緑色を基調にした会場には、やはり巨大なスクリーンが設置されていたが、その数は国民党の集会よりもかなり多いように見えた。

副総統候補の蕭美琴が登壇中。外交官出身だけに、わかりやすい語り口。党内では距離がある蔡英文派と新潮流派(頼清徳の派閥)との中間派で、両者の橋渡しも期待されている ©安田峰俊

 いっぽう、人々の年齢層は、国民党の集会参加者よりはすこし若いとはいえ50~60代がメインだった。実は民進党も、2016年に蔡英文が当選したときこそ若者の人気を集めていたが、経済の低調や物価・不動産価格の高騰といった問題が解決しなかったことや、民進党自体が結党から約40年を経て完全に既成政党化していることで、失望した若者の離反を招いているとされる(そうした若者は第三極の政党である台湾民衆党の支持に流れている)。

ADVERTISEMENT

 実際、会場を見ていると、2016年に私が現地で見た選挙集会と比べて、コアな支持者の高齢化は明らかだった。もっとも、それでも国民党の集会とは違い、若者や親子連れの姿もそれなりにみられる。人々の間に「〇〇里」の看板はすくなく、動員よりも自分で来る意志を持って来ている人たちが多そうな印象だ。

 会場に足を踏み入れると、ボランティアスタッフから「選対的人、走対的路」(正しき人を選べば正しき道を歩む)というスローガンと、総統候補の頼清徳、副総統候補の蕭美琴の名前が印刷された緑色の小旗を渡された。

「自分たちが正しいので選ぶのが正解です」と言い切る自信と潔さは、日本の政党も見習ってほしいところ…… ©安田峰俊

 国民党が「中華民国」のアイデンティティにこだわるのに対して、民進党は「台湾」のアイデンティティによりこだわる政党だ。国民党の集会では目眩がするほど大量の中華民国国旗があふれていたのに対して、民進党の集会で国旗はほとんど見られない。

自分たちに投票するべき理由を理屈で説明

 さらに国民党との集会の違いは、プログラム内での歌舞音曲のすくなさだった。この日は頼清徳と蕭美琴、さらに現総統の蔡英文、前行政院長の蘇貞昌といった顔ぶれが集まっていたのだが、彼らはとにかく演説を続けたがる。

 蔡英文政権の8年間の業績を繰り返し強調し、今後の頼清徳政権が信頼に足ることを強調し、中国大陸と関係がよくなくてもちゃんと外資の投資が来ることを訴え──。外国人の目線から見ると、話が多すぎて多少退屈な印象を受けなくもない内容である。