今年10月に開かれた中国共産党第20回大会については、すでに報道の洪水である。習近平の「3期目」は既定路線とはいえ、国内外のチャイナウォッチャーを驚かせたのは、党の最高指導部である政治局常務委員会のメンバーが、すべて習近平の子飼いで占められていたことだった。
その卓越した行政能力ゆえに、次政権にも残るかと目された李克強現総理や、次期の総理候補ともみられた汪洋、これまで次世代のホープとみられてきた胡春華といった面々が、 すべて党の政治局から消えた。大会最終日の22日、前党総書記の胡錦濤が不自然な退席を余儀なくされたことも、さまざまな憶測を呼んでいる。
「橋の男」が開いた新展開
いっぽう、党大会の前後から漏れ伝わるのが、国内外での抗議の動きである。まず、党大会直前の10月13日、北京の四通橋に「PCR検査は要らない、食べさせてくれ」(不要核酸要吃飯)、「仕事や学校に行っている場合じゃない、国賊の独裁者・習近平を罷免せよ」(罷工罷課罷免独裁国賊習近平)などと書かれた巨大な横断幕が登場したことが世界的に話題になった。
逮捕や拷問を覚悟の上で抗議をおこなったこの人物は、彭載舟という48歳の男性とみられている。海外メディアでは、六四天安門事件の際に戦車に立ち向かった「戦車の男」(タンク・マン)になぞらえて「橋の男」(ブリッジ・マン)と呼ばれるようにもなった。
この事件は、中国国内では情報統制によってほとんど知られていない。だが、北京・上海・広州などすくなくとも国内8都市において、「橋の男」がSNSにアップしていたのと同じデザインのビラが撒かれたり、トイレ内で体制批判の落書きが見つかったり、大学内の掲示板にビラが貼られていたりと、一部に呼応する動きが出たという。
それだけではない。実は日本を含む世界の各地でも、街頭での抗議パフォーマンスが起き、習近平体制批判や四通橋事件のスローガンを書きつけたポスターがあちこちに貼られるようになっている。
全身防護服で大使館に抗議
たとえば10月16日には、麻布の中国大使館前で、全身防護服を着用した若い男性の一団が、プラカードに印刷した四通橋事件のスローガンを掲げるパフォーマンスをおこなっている。ちなみに、全身防護服は中国語で「大白」(da bai)と呼ばれ、在外中国人の間では習近平政権による強引なゼロコロナ政策の象徴になっている。