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 民進党は1986年、まだ国民党の独裁体制下にあった台湾で、民主化を求める人たちを中心に草の根の泥臭い世界から始まった政党だ。しかし、今世紀に入ってからの2度の与党経験を経て、現在は都市型のエリート政党としての顔が強まっている。LGBTや脱原発、ジェンダーなどの問題にも非常に高い関心を示す政党である(若者層の支持が離れている一因も「それらの理念もいいけれど自分たちの暮らしをなんとかしてくれ」という不満がくすぶっていることにある)。

 リベラルエリートの党としては、有権者が自分たちに投票するべき理由は歌舞音曲のノリではなく理屈で説明しなくてはならないと考えているのかもしれない。もちろん、選挙活動としてはこちらの方が「真っ当」ではある。

経済・政治改革・雇用・少子高齢化…台湾が直面する課題

 ところで、日本において台湾の選挙はしばしば「台湾独立か中国との統一か」といった文脈で語られがちだ。だが、実際のところ台湾の民意の大部分は、どの党を支持するかにかかわらず、広い意味での現状維持を希望する声が多数派を占める。ゆえに民進党であれ国民党であれ、そこから外れた選択肢は取れない。

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 中華民国体制を撤廃して台湾国を作るという「台湾独立」をおこなわずとも、中台分断から70年以上を経た中華民国は実質的には台湾とほぼイコールの存在になっている。そのため、中華民国が(国際的承認は得ていないとはいえ)独立国家をもって任じている以上、台湾はすでに実質的に独立した状態にあると考えていい。

 いっぽう、現在の中台間の力関係からすれば、「中国との統一」は中華人民共和国による台湾併合以外の形はありえない。現実的にそれを望む人は、たとえ国民党支持者でもほとんど存在しておらず、やはり現実的な選択肢ではない。

 せいぜい、中国大陸と距離を置いてでも台湾のアイデンティティを強く保った状態で現状維持を志向するか(民進党)、中国大陸と友好的な姿勢を取りつつも中華民国アイデンティティを強く保った状態で現状維持を志向するか(国民党)。習近平体制の中国の現状からすると、いずれもそれはそれで困難なことなのだが、台湾が取りうる対中姿勢は実質的にこの二択で、「現状維持」という点は変わらない。

侯友宜への投票を呼びかける国民党の青年団体。だが、あまり若い人ばかりでもなさそうだ ©安田峰俊

 ゆえに台湾の選挙民も、日本をはじめとした海外の人たちが想像するほどには、中台関係だけを理由として投票行為はおこなわない。選挙における他の争点は経済・クリーンな政治・雇用と労働環境・住宅難・少子高齢化……という、いずれの先進国も直面している課題である。

 もっとも、そうであるからこそ、硬直した姿勢しか取れない既存の二大政党のありかたに対する不満も生まれ、既存の権威をポピュリズム的に批判する勢力も一定の支持を集める。それが今回の第三極である民衆党だ。

 こちらについては、また別の原稿で書くことにしよう。

戦狼中国の対日工作 (文春新書 1436)

安田 峰俊

文藝春秋

2023年12月15日 発売