1月13日、台湾(中華民国)では4年に1度の総統選挙(大統領選に相当)と、立法院選挙(国会選に相当)がおこなわれる。近年、日本では「台湾有事」の可能性が話題になっていることもあり、従来の総統選よりもはるかに注目度が高いようだ。
そのため、メディアでは選挙報道があふれている……が、台湾は国情が非常に複雑な国であり、基礎知識を持たない日本人にとっては、なかなかわかりにくい。そこで今回の原稿では、現地の様子を伝えつつ、他のメディアよりもゆるやかに読める台湾選挙ルポをお送りしよう。
集会に来た人を飽きさせない“工夫”
私が台北に到着した翌日の1月7日、 台北市内からバスで1時間の距離にある桃園市中壢区で、与党・民主進歩党(民進党)と最大野党の中国国民党(国民党)の集会がそれぞれ開かれていたため、行ってみることにした。
まず、はじめに目にしたのは機場捷運(空港地下鉄)の老街渓駅の駅前にある 広場で開かれていた国民党の集会だ。 地下鉄を降りると、出口に出る前から大音量の音楽や人々の歓声が響いてきた。台湾の国政選挙は4年に1度の「お祭り」という側面があり、集会では来た人を飽きさせない工夫がなされている(意地悪く言えば、面白くない集会には誰も来たくないのだ)。
階段を登ると、 地下鉄出口のすぐ隣の広場はぎっしりと人で埋まり、さらに歩道にもイスが溢れていた。後日の主催者発表は6万人とされており、実数でも1万~2万人は来ている印象だ。広場の背後にある建物は中壢地域の選対本部で、壁には総統候補の侯友宜のほか、この地域に地盤を持つ国民党の国会議員や地方議員の顔写真をデザインしたラッピングが施されていた。スポーツイベントのようなスタイリッシュなイメージだ。
広場の群衆の前には映画スクリーンばりに巨大な液晶モニターがいくつも備え付けられ、両脇に「民主要制衡」(民主主義のバランスを取ろう)、「政黨要輪替」(政権与党は交代交代で)とスローガンが出ている。
解説すれば、台湾の総統の任期は最長2期8年で、1990年代に国民党の李登輝政権下で民主化がおこなわれて以降の政権与党は、民進党(陳水扁)、国民党(馬英九)、民進党(蔡英文)……と8年ごとに交代している。過去の国民党独裁時代の影響もあり、台湾の選挙民には特定の政党に長期政権を担わせたくないという心理も存在する。なので、次は国民党の番だというわけだ。
では、政権奪還を目指す国民党は選挙集会でいかなる政見を述べたのか──?
「〇〇里」「〇〇村」と書かれたプラカードがちらほら
結論を言えば、私たちが会場の近くにいた約1時間弱の間には、演説はほぼなかった。会場はそこそこ熱気があったものの、ひたすら大音量で歌手たちが歌い踊って投票を呼びかけているだけである。