2003年6月20日に発生した、福岡市に住むAさん(41)と妻、2人の子供が殺害された「福岡一家4人殺人事件」で、事件への関与が疑われる中国人の元日本語学校生・王亮(21)と元私大生の楊寧(23)。
犯行の4日後に中国に帰国した彼らの、中国・吉林省にある実家の取材を終えた私は、日本に戻ってきていた。
殺人事件に関与していることを認めた魏容疑者
すると間もなく、旧知の福岡県警担当記者から電話があった。
「福岡で逮捕されていた魏容疑者が、Aさん一家殺害への関与を自供しました。『(中国に帰国した王と楊の)2人に誘われ、3人でやった』と話しているようです」
元専門学校生の魏巍(23)は、中国へ帰国直前の03年8月6日、元交際相手への傷害容疑で福岡県警に逮捕されていた。もちろんそれが、Aさん一家殺害に関係する逮捕であることは、当時この事件を取材する者ならば、みな知っている。
そしてついに、魏が殺人事件に関与していることを認めたというのだ。私は中国の河南省に住む魏の父親の携帯電話番号を知っていた。これまで事件への関与が明らかになるまでは、連絡を入れないことにしていたが、これは連絡を入れてみるべきだろう。
そこで福岡県内に住む、中国語の通訳をしているEさんに電話を入れ、一緒に電話をかけて欲しいと依頼した。
「まさか……」電話越しに息を呑む魏容疑者の父
9月16日の夕刻。目の前のEさんが国際電話で、中国の携帯電話番号を押す。先方はすぐに出た。魏の父親である。Eさんが私のことを伝えると、続いて事前に決めていた質問をする。
「日本にいるあなたの息子さんが逮捕されていて、一家4人が殺された事件に関わったと供述していることをご存じですか?」
携帯電話のスピーカー越しに、父親の息を呑む気配が伝わる。
「まさか……。おとなしい子だったので信じられない……。息子から最後に電話を受けたのはもう何カ月も前です。ただ、日本にいる息子の友達の母親から、うちの子が8月中旬に中国に帰ってくるかもしれないと連絡を受けていました。それなのに帰ってくる様子がないし、本人からの連絡もないので心配していたのです。その話は真実なのですか?」
細かく震えた、狼狽する声だった。通訳が翻訳するその返答を聞き、私は次の言葉を伝えてもらう。
「お気の毒ですが、本人も認めており、ほぼ間違いありません」