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 もちろん、この選挙集会には総統候補の侯友宜、副総統候補の趙少康のほか、党主席の朱立倫(2016年の総統候補で侯友宜の後ろ盾)、2020年総統候補で立法院選の比例第一位に名を連ねる韓国瑜など国民党のスターたちが勢ぞろいしていた。集会のなかでは彼らの演説もおこなわれていたとはいえ、タイムテーブルにおいてその割合は決して大きくないのだ。

 広場にいる人々の顔ぶれは高齢者が多く、その間を小さな子どもたちが無邪気に走り回っている一方、現役世代の姿はあまり見られない。 おじいちゃんおばあちゃんが孫を連れてやってきているという印象だ。

 高齢者の群れのあちこちには、「〇〇里」「〇〇村」と書かれたプラカードが出ている。これは日本でいう「大字」(おおあざ)くらいの規模の地域単位だ。古い政党である国民党の強みはこうした地方の村里長(日本の町内会長に近いが一応は公務員)に影響力があることで、地域における国民党の選挙集会の参加や票の取りまとめはしばしば彼らの呼びかけ(動員ともいう)によっておこなわれる。

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高齢者が目立つ支持者の群れのなかに、「里」のプラカードが立つ ©安田峰俊

 地方の高齢者は政策そのものよりも従来の習慣や人間関係で投票行動をおこないがちな傾向もある。きつい言い方をするならば、そうした人たちには選挙集会で政策を語るよりも、歌舞音曲でもてなしてあげたほうが票につながるということかもしれない。

侯友宜陣営は「3D戦略」を提唱

 会場では大音量の音楽に合わせて、人々が手にする青天白日満地紅旗(中華民国の国旗)の小旗が揺れ続けていた。なお、日本においては、国民党は「中国」寄りだと簡単に解説されることが多いが、彼らがこだわっている「中国」とは中華民国のことである。

 多少の解説を加えると、近年の国民党が大陸の共産党と接近しているのは、もともとは民進党と対抗する目的で旧敵と手を握ったからであり、別に大陸側の政権に吸収されたいからではない。また、台湾経済は大陸と密接な関係を結んでおり、すでに高度成長期を終えて久しい台湾が経済を浮揚させるには、大陸とある程度は安定的な関係を保つことが現実的に必要でもある。

 ただし、共産党側にはそれを利用して台湾を併合したいという狙いが常に存在する。前政権の馬英九時代の後半にはこの狙いが露骨にあらわれ、それにもかかわらず馬英九が対大陸傾斜に歯止めをかけなかったことで、市民に不安を抱かせた。

 今回の選挙でも、侯友宜陣営は従来の民進党政権下における大陸側とのコミュニケーション不足が目下の緊張を高めていると主張しており、(1)抑止(Deterrence)、(2)対話(Dialogue)、(3)非エスカレーション(De-escalation)の「3D戦略」を提唱。台湾が香港のような中華人民共和国の主導下での一国二制度に置かれることには反対しつつ、中華民国憲法と合致する形での「九二共識」を前提として大陸側と向き合う立場を示している。