例年なら年末年始は、箸にも棒にもかからない番組が九割超だが、今年は大丈夫、私にはアニメ『葬送のフリーレン』がある。年末二二日に第一クールは終えたが、一月五日から第二クールが始まる。
一〇月の半ば。夜一一時過ぎに不思議なアニメを目にした。登場人物も背景も端整で美しく、静謐なトーンが画面を支配している。何だろう、これは。
クールで愛らしい魔法使いのフリーレンは、十代前半の少女にしか見えないけど、千年以上を生きるエルフ族だ。魔王と配下の魔族を、フリーレンは三人の仲間たちと打ち倒した。
「じゃ、五〇年後に会おうか」。こともなげに彼女は仲間たちに告げ別れる。仲間は苦笑する。千年生きるエルフには、人間の寿命と時間感覚がわからない。
五〇年後に約束の場所で会うと、イケメンが自慢だった勇者ヒンメルはすっかり「老いぼれている」。酒呑みの生臭坊主、司教のハイターも老いた。五〇〇歳生きるドワーフ族のアイゼンはあまり変わらない。
魔族と闘った仲間と会ったヒンメルは、長い闘いもいまこうして再会できたのも、とても楽しいといって安らかに亡くなった。
フリーレンは初めて、人間の寿命の短かさを知り、涙を流す。そして「もっと人間を知ろう」と、新たなチームと冒険の旅に出る。
私はね、今のアニメが苦手なの。少し驚いたり感激すると、「アッ!」とか「ハッ!」とか、圧の強い大袈裟な声をセリフの前後に発するでしょう。あの暑苦しさが苦手なんだ。
近年観たアニメは『アリスとテレスのまぼろし工場』『ぼくらのよあけ』くらい。これは実写だが、大友克洋の漫画「童夢」にヒントを得た北欧の映画『イノセンツ』も良かったな。
勇者ヒンメルの死から二〇年後。冒頭ではこう書きだされる。それが年末の回では「二九年後」に。千年を生きる聡明なフリーレンは、人間のはかなさも意義もわかってきた。
勇者ヒンメルの伝説を誇らしく語る住民を見て、ヒンメルの記憶を未来に伝えなくてはと彼女は思う。
魔族の脅威に晒されている荒れた村でも、住人は立ち去らない。フリーレンが理由を問うと「ここは、俺と家族が住んだ場所」だからと答えが返る。
話が脱線するが、私がずっと外苑再開発に徹底して反対したのも同じだ。イデオロギーじゃない。十代のとき代々木のジャズ喫茶で出会った女子美の高校生に「ねえ、絵画館前に行こうか?」と誘われ、彼女のお弁当を二人で食べた。「学校サボッたことバレるから、一緒に食べてね」。そんな懐かしく甘美な場所は、都心にはもう神宮外苑しかない。その記憶を消そうとする魔族を許さないんだな。フリーレンを観て判った。
INFORMATION
『葬送のフリーレン』
日本テレビ系 金 23:00~
https://frieren-anime.jp/