高知市から仁淀川に沿って国道33号を西へ走っていると、国道から右に分岐する1本の脇道がある。分岐のすぐ先に、コンクリート造りのトンネルが見えてくるのだが、驚かされるのが、周囲の光景と似つかわしくない意匠性だ。

国道33号と大渡隧道

 入口は左右が大きくせり出していて、古代ギリシア時代に建設されたパルテノン神殿をも彷彿とさせる。山間部に数軒の民家が点在するのどかな場所に、いったいなぜこんなトンネルが――?

大渡隧道東側 

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集落に現れる謎の「パルテノン神殿風トンネル」

 道路にはセンターラインこそないものの、大型車が通れるだけの十分な高さがある。また、左右がせり出した構造をしているため、その場に立つとトンネルに圧倒されるようで、非常に大きく感じる。左右のせり出しは、装飾用の付柱(つけばしら)と、構造物を支える控え壁を兼ねているのだろう。

 このトンネルの名は、「大渡(おおど)隧道」という。隧道とは、地下を通過するための土木構造物のことで、トンネルと同じ意味だ。これが見たくて、私は岐阜から高知までやって来たのだった。

大渡隧道東側 

 不思議なのは、まずは立地だ。

 国道から逸れた山間部にあり、周辺には数軒の民家しかない。そんな脇道に、立派な装飾をまとったトンネルがあるのだ。国道33号から分岐してすぐという位置関係から、国道の旧道であることは想像できるが、この異様ともいえる意匠性については“謎”でしかない。

 歩いてゆっくり隧道に近づくと、さらに不思議なことがある。まずは隧道の全長の短さだ。すぐ向こうに出口が見えており、距離にして20メートルほどしかない。こんなに入り口が立派であれば、さぞ長大な隧道なのかと思いきや、拍子抜けの短さである。

 さらには、隧道の上に山がほぼ無いことも気になる。

 隧道上部から地表までの高さはせいぜい数メートルしかない。これだったらわざわざトンネルを掘るよりも、山を切り崩して切通しにしてしまったほうが、楽に道を造れるだろう。

大渡隧道東側

 隧道の入り口で、改めてじっくりと見学する。