「男は短髪だ、スポーツをしろ」「髪を染めたら家に入れない」など男らしさを重視する父親の影響から、小さい頃は自分の好きな格好ができなかった女装サラリーマンのNanasaiさん(33)。

 そんな彼がなぜ大人になってから女装にハマり、自身を美しくすることに目覚めたのか? 発端は「がんで亡くなった父の遺言」にありました――。(全2回の1回目/後編を読む)

Nanasaiさんが「女装」に目覚めた意外すぎるきっかけとは? ©釜谷洋史/文藝春秋

きっかけは「父の死」と「30年ローン」

――いつ頃から女装に興味を持っていたのですか?

ADVERTISEMENT

Nanasai 子どもの頃から中性的な雰囲気が好きで、男性が髪を長く伸ばしたりするのが格好いいと感じていました。また、女性のメイクや美容という未知のものに対する憧れや興味がありました。

 しかし僕の父は、「男は短髪だ、スポーツをしろ」というタイプだったんです。学生時代は「髪を染めたら家に入れない」と言われたし、「お前は身長が高いからバスケだ」と苦手な部活をやらされていました。表向きは親の意向に従っていましたが、「経済的に自立したら自分の好きな格好をしよう」と決めていました。

――社会人になってからはどうだったのですか?

Nanasai IT系なら服装の自由があると思い、スーパーマーケットのシステム部に入社しました。しかし身だしなみに厳しい業種だったため、男性が髪を伸ばすことは禁止されていたんです。思惑が外れたので、ヒゲ脱毛など許される範囲内の美容を始めました。

Nanasaiさんの女装姿(画像:本人提供)

――本格的に女装を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

Nanasai 7年ほど前に父ががんで亡くなったんです。父にはマイホームを持つという夢がありましたが叶わないままでした。しかし亡くなる前、「欲しいと思っていた家がある。お前がローンで買ってくれないか」と言ってきたんです。とんでもない話だと思いながらも、断りづらいし「前向きに検討します」と返事をしたら、次々に書類が出てきて30年ローンを組むことになりました(笑)。

 それが吹っ切れるきっかけでした。「ローン返済のためにレールの上を走る生き方を続けたら、自分のやりたいことが何もできない」と危機感を抱くようになったんです。

 職場は夜中の3時に電話がかかってくるような環境で、ストレスが溜まっていたことも要因の1つでした。当時28歳で、女装を始めるには遅いと思いましたが、そんなことを気にしていたら何もできない。そんな状況に反発心が芽生えて、まず髪を伸ばし始め、家の中で少しずつ女装をするようになりました。

――ローンを組んだことは後悔しませんでしたか?